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グルメ 記事まとめ

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浮世絵に描かれた食文化の記事をまとめてみました。
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記事一覧

なぜダルマはそばをすするのか?―歌川国芳「木曽街道六十九次之内 守山 達磨大師」

橙色の袈裟を着たひげ面の男性が、もりそばを食べている。この人物の正体は、達磨大師。インドから中国へ渡り、禅宗を伝えた僧侶である。壁に向かって9年間も座禅を組み、悟りを開いたという「面壁(めんぺき)九年」の逸話で有名だ。 国芳の門人である月岡芳年は「月百姿 破窓月」で、達磨がぼろぼろになった壁の中で座禅する姿を描いている。 達磨は、江戸時代の庶民たちには馴染みのあるキャラクターで、浮世絵では、遊郭の花魁と一緒にいる姿がしばしば描かれている。こちらは勝川春章の肉筆画「達磨

おいしいの視線の先は?―月岡芳年「風俗三十二相 むまさう 嘉永年間女郎之風俗」

満月の輝く夜、建物2階の縁側で女性がにこやかな表情をしている。右手に持つ串の先に刺さっているのは、天ぷらだ。しっぽがあるので魚であろう。メゴチかキスだろうか。 染付の大皿に天ぷらが盛られ、縦じま模様のそばちょこには、天つゆがなみなみと注がれている。 江戸時代の庶民たちに人気のグルメといえば、そば、すし、うなぎ、そして、天ぷらである。江戸の町でいう天ぷらとは、魚介類にうどん粉をまぶして、ごま油で揚げたもの。アナゴや芝エビ、コハダや貝柱などが好まれた。 天ぷらは油を使う

江戸時代のスイカはどのようにカットしていたのかというお話

2020年8月18日、Twitterでこんなツイートをしたところ、太田記念美術館が2012年にTwitterを初めて以来、一番多い「いいね」の数(この記事の執筆時点で3万3127人)を獲得しました。 このツイートを書いたきっかけは、たまたま「マツコの知らない世界」(TBSテレビ)で「スイカの世界」を特集していた際(2020.8.18)、最近のスイカはカットした状態で販売されていることが多いという情報を知ったからです。 マツコ・デラックスさんとほぼ同年齢の筆者としては、カッ

江戸っ子たちに人気の日本酒を探してみた

東海道や中山道など、五街道の起点となる日本橋。北側に魚市場があったこともあって、日本橋を描いた浮世絵を見てみると、江戸時代の食文化に関するさまざまな情報を発見できます。 こちらは溪斎英泉の「江戸八景 日本橋の晴嵐」。大勢の人々で密になっている日本橋のにぎわいが描かれています。 マグロやカツオなどの鮮魚を運ぶ人。 大根を運ぶ人もいます。 なにか食べ物らしきものを売っている人も。 そんな中、酒の入った菰樽を積んでいる大八車を、懸命に運んでいる男たちがいます。 こちらの

猫のお蕎麦屋さんをレポートしてみた

猫が経営する、猫のためのお蕎麦屋さん。猫好きなら一度は行ってみたい、そんな素敵なお店が、浮世絵の世界にはあります。 四代歌川国政が描いた「しん板猫のそばや」です。明治6年(1873)の作。今回は、このお店を皆様にご案内いたします。 ※美術館では現在、展示はしておりません。 まずは、下の方にある入り口から見てみましょう。 看板には、人間の世界のお蕎麦屋さんでもお馴染みの「きそば」の文字が。障子に書かれている文字は「泡美」。お店の名前でしょうか。猫の食事入れとして用いられて

江戸時代のお蕎麦屋さんをご紹介します。

江戸っ子たちが大好きだったグルメといえば、蕎麦。今回は、浮世絵の中に描かれたお蕎麦屋さんをご紹介します。 まずは、屋台を担いで蕎麦を売り歩く、夜蕎麦売りの浮世絵から。歌川国貞の「今世斗計十二時 寅ノ刻」です。寅ノ刻とは深夜3時から5時ごろのこと。岡場所の遊女が描かれていますが、左上をご覧下さい。 こんな深夜まで、蕎麦を売り歩いている夜蕎麦売りの様子です。屋台に風鈴が2つぶら下げられているところにご注目ください。 これは夜蕎麦売りの中でも、風鈴蕎麦と呼ばれるもの。夜蕎麦売