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みんなで力を合わせて悪い鬼を倒そうというお話。

節分といえば、最近は恵方巻きが話題になることが多いですが、「鬼は外、福は内」のかけ声で豆をまく豆まきも、伝統ある風習です。「鬼は外」の「鬼」とは、家の中から追い払うべき、厄災や災難の象徴。鬼とは、人間にとって、「悪い物」「恐ろしい物」と考えられてきた忌むべき存在です。

人気漫画『鬼滅の刃』は、主人公・竈門炭治郎が鬼殺隊の仲間たちとともに、鬼舞辻󠄀無惨が率いる鬼を倒そうとするストーリーですが、日本では古くから悪い鬼を退治するという物語が、さまざまに伝わっています。

中でも、仲間たちと協力して鬼を退治する話として、浮世絵の中で頻繁に描かれるのが、酒呑童子の物語です。懐月堂安度の肉筆画「大江山絵巻」を中心に、酒呑童子の物語をご紹介しましょう。

時は平安時代。酒呑童子という悪鬼が、丹波国の大江山に棲んでいました。都から美しい姫君たちさらって悪行三昧。こちらは月岡芳年の「和漢百物語 酒呑童子」です。酒呑童子の体は巨大ですが、人間の姿をしており、鬼のようには見えません。美女たちを周囲にはべらせ、鬼と女性が布引きの力比べをしているところを、退屈そうな表情で眺めています。

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酒呑童子を退治するために立ち上がったのが、源頼光と、その部下である四天王(坂田金時、渡辺綱、碓井貞光、卜部季武)。さらに藤原保昌を加えた、計6人の武者たちは、鬼たちに怪しまれないように近づくため、山伏に扮装して大江山へと出発します。こちらは懐月堂安度の肉筆絵巻である「大江山絵巻」の一場面。

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左から2番目がリーダーとなる源頼光でしょう。修験者には欠かせない、笈(おい)という箱を担いでいますが、妹が入っているわけではありません。

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大江山に入った源頼光一行。険しい山道で迷っていたところ、3人の翁たちに出会います。実はその正体は、住吉明神、熊野権現、岩清水八幡宮という神様の化身。こちらも懐月堂安度の「大江山絵巻」です。

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頼光は翁たちから、「神便鬼毒酒(じんべんきどくしゅ)」という、人間には薬だが鬼には毒になるというお酒と、「星甲(ほしかぶと)」という兜を授けられます。

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さらに山道を進む源頼光の一行。川で血のついた衣を洗っている若い女性に遭遇します。実は、酒呑童子にさらわれ、下働きをさせられていた都の姫君でした。頼光はこの女性から酒呑童子の住処を聞き出します。懐月堂安度の「大江山絵巻」より。

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①2-8懐月堂安度2

翁や姫君の助けを得ながら、なんとか酒呑童子の住処にたどり着いた一行。道に迷ったので一夜の宿を求めていると言い、中に入ろうとします。門番をしていた鬼たちも、山伏だと思い、頼光たちを中へ案内しました。

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赤鬼と青鬼、謎のポーズです。それぞれ片足で立っています。

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酒呑童子は頼光一行を招き入れ、宴を催します。

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この時の酒呑童子、鬼ではなく人間の姿をしています。酒呑童子は、頼光たちが山伏ではなく、自分を退治しに来た武士なのではないかと疑います。

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酒呑童子や鬼たちを油断させるため、踊りを踊る頼光たち。こちらは勝川春亭の「源頼光山入之図」。

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鬼の三味線に合わせて、踊っています。

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それでもまだ疑いの眼差しを向ける酒呑童子。頼光たちに血の酒や人肉をふるまうなどしますが、ついには酒呑童子も気を許し、頼光に注がれた神便鬼毒酒を飲んでしまいます。

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神便鬼毒酒を飲んで酔いつぶれてしまった酒呑童子。頼光たちは甲冑をまとい、酒呑童子の寝室を襲います。こちらは歌川国芳の「大江山酒呑童子」。

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酒呑童子の顔をよく見ると、右側は人間ですが、左側は正体である鬼の姿に戻ろうとしています。目が開いているので、頼光たちの攻撃には気が付いているのでしょうが、神便鬼毒酒のせいで動けないようです。頼光は酒呑童子の首を斬り落とそうと、すぐ後ろで刀を構えます。あの名刀、童子切安綱でしょう。

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頼光たちは動けない酒呑童子の首を見事に切り落としました。こちらは、ふたたび、懐月堂安度の「大江山絵巻」です。

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この時、酒呑童子は、顔も体も完全に鬼の姿に戻っています。しかし、首を斬られてもなお、酒呑童子はあきらめません。

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首だけになっても、何とか頼光だけは倒そうとする酒呑童子。頼光の頭にくらいつきますが、頼光は翁たちから賜った星甲を装着していたおかげで、最期の攻撃も効きませんでした。

①2-11懐月堂安度2

こうして、源頼光は、仲間たちの協力を得て、酒呑童子を倒すという目的を達成したのです。めでたし、めでたし。

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節分の夜、浮世絵に描かれた鬼の姿をイメージしながら、豆をまいてみるのはいかがでしょうか。

文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)


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