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ヤマタノオロチがスサノオに退治された話

2021年5月29日、Twitterでこんなツイートをしたところ、予想以上のリツイートやいいねをいただきました。

このツイートを書いたきっかけは、ハリウッド映画「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」がテレビで放送されていた際、龍のような頭を3つ持つキングギドラからヤマタノオロチを連想したためでした。(ちなみに映画の中で、ヤマタノオロチは日本にいる怪獣として、名前だけ登場します。)

今回は、ヤマタノオロチと、それを退治したスサノオを題材とした浮世絵をご紹介いたします。

『日本書紀』によれば、ヤマタノオロチは、出雲国にいた頭と尾が八つある巨大な蛇で、目はホオズキのように赤く、背中には松や柏が生えており、体は八つの丘や谷まで延びていたそうです。

天から降ったスサノオが、ヤマタノオロチの生贄にされようとなるクシイナダヒメを救うため、酒を入れた八つの桶を用意します。ヤマタノオロチを酒に酔わせるためです。

こちらは月岡芳年の「大日本名将鑑 素盞烏尊 稲田姫」。右下にいるのがスサノオ。川の中には酒(『古事記』では八塩折(ヤシオリ)の酒)の入った甕が並べられています。

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左上にいるのがクシイナダヒメ(この作品では稲田姫と表記)。『日本書紀』ではスサノオによって爪櫛に姿を変えられ、スサノオの髪に挿されますが、この作品では人間の姿のままになっています。まだヤマタノオロチは姿を現していません。

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次にご紹介するのは、勝川春亭の「素戔嗚尊と山田大蛇」。スサノオたちの目の前に、ヤマタノオロチが姿を現した場面です。

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中央がスサノオ、右端がクシイナダヒメですが、ここではヤマタノオロチに注目しましょう。頭は蛇というよりも龍の姿をしています。

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また、一見したところ、頭は1つしかないようですが、じっくり観察してみると、ご覧の通り、小さな頭がほかに7つあり、ちゃんとヤマタノオロチになっています。どうつながっているのか、よく分かりませんが…。

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また、尻尾は描かれていないため、『日本書紀』にあるように、8つに分かれているかはわかりません。

この後、ヤマタノオロチは酒を飲み、酔っぱらって眠ってしまいます。そこをスサノオが十握剣(別名、天羽々斬剣(あめのはばきりのつるぎ))でヤマタノオロチを斬って退治をします。尾を斬る時に刃が欠けたので、調べてみると、中から草薙剣(くさなぎのつるぎ)が出てきました。その後、スサノオとクシイナダヒメは結婚します。

さて、このヤマタノオロチとスサノオの神話のパロディーとなっているのが、一番最初に紹介した歌川広重の「童戯武者尽 素戔嗚尊」です。風景画で知られる歌川広重ですが、実はユーモラスな戯画も描いていました。改めてじっくりと見てみましょう。

4167.003歌川広重

「大蒲焼」「小かばやき」の看板が出ていますの、ウナギの蒲焼屋かと思いきや、俎板の上をよく見てみると…

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目打ちされているのは、ウナギではなく、龍の頭をしています。手前の皿には、すでに蒲焼にされたものが売られています。

捌いているのはスサノオ。スサノオに退治されたヤマタノオロチは、哀れ、首ごとに捌かれて、蒲焼となってしまったようです。使っている包丁は、ヤマタノオロチを退治した十握剣(天羽々斬剣)でしょうか。捌いている間に尻尾から草薙剣が出てくるかもしれません。

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串打ちされたヤマタノオロチを炭火で焼くのは、クシイナダヒメ。生贄にされそうになった仕返しでしょうか。ヤマタノオロチ、香ばしく焼かれています。ヤマタノオロチを退治した後、クシイナダヒメはスサノオと結婚しますが、夫婦2人で蒲焼屋を始めたようです。

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スサノオとクシイナダヒメの後ろには、おそらく蒲焼用のタレが入った甕が積まれていますが、これはヤマタノオロチを酔わせた八塩折(ヤシオリ)の酒の入った甕からの連想でしょう。

4167.003歌川広重

本当は巨大なはずのヤマタノオロチですが、この作品ではご覧の通り、可愛らしい姿に。首は8つしかありませんので、すぐに売り切れてしまいそうですね。

文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)


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