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アニマルデザインの団扇絵 5選

暑い日に欠かせない団扇は、江戸時代も人々の必須アイテム。そして当時、自分好みの団扇を手に入れるのに必要だったのが、団扇絵です。団扇絵は浮世絵版画のジャンルの一つで、紙の周辺を切り取って竹の骨に貼り付けるという実用品。これを使うことで、季節や個人の好みによって団扇の柄を替えることができました。動物を描いたものも数多く、今回は収蔵品のなかから団扇絵5点をご紹介いたします。

1.歌川広重「月に兎」

101 2673 歌川広重

満月の下、兎が2羽描かれます。青と白のコントラストが大変爽やかですが、月や兎には輪郭線がありません。これによって月の輝きや兎の白さ、さらに毛並みの柔らかさが際立ちます。周囲にはススキも見え中秋の名月を思わせる季節感にもあふれた1点。暑い日には眼にも涼やかな団扇となり、またこれを手に月を眺めるのも一興でしょう。

2.葛飾北斎「狆」

021 4878 葛飾北斎

江戸時代、上流階級でペットとして人気だった狆。描かれた狆も房のついた可愛らしい首輪をつけ、キレイな鞠で遊んでいますから、飼い主の余裕のある暮らしぶりがうかがわれます。背後にはタンポポやイヌタデが咲いていて、春らしいはなやかさが添えられています。・・・ですが、どことなく得意げな表情、執拗に描きこまれた長い毛、鋭い爪などがあいまって、描かれた狆は独特の存在感を放っています。犬好きの方のみならず、他の人とちょっと差を付けたいという方にもおすすめしたい団扇です。

3.梅堂小国政「猫」

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招き猫が登場したのは幕末。当時は「丸〆猫(まるしめねこ)」とも呼ばれ、嘉永5年(1852)から4~5年ブームとなり、以後は「千客万来」「金運招福」などのご利益を期待されつつ親しまれました。この招き猫のポーズをした猫を描く本作も、よく見ると首輪についた名札には「金八」と書かれ、座布団の柄はなんと小判でできた花。猫の可愛らしさを愛でつつ、運(とくに金運)を招くラッキーアイテムとして、こんな団扇を使うのも良いかもしれません。

4.歌川貞秀「蛸踊り」

118 11520歌川貞秀

水辺で、文字通りの蛸踊りを披露する蛸たち。鉢巻や衣装から、当時、大道芸としても人気であった住吉踊りと思われますが、8本の足をくねくねと人間のように動かす姿はなんともユーモラスです。ともあれ、こんな団扇を手にしたら踊りだしたくなることうけあいです。

5.歌川国貞「雲の峰」

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団扇絵のなかに団扇を持つ女性を描く、その趣向も面白い1点です。題名の雲の峰とは入道雲のこと。画面左上の釣り忍(涼を呼ぶため軒先につるした)でできた枠に記される「日陰にはもそつと低し雲の峰」にちなみます。

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雲を背景に女性はゴザの上で浴衣をはだけてくつろいでいて、暑い日の情景であることが伝わりますが、手にした団扇に描かれるのは雨を背景に竹を這うカタツムリ。目で見て涼しさを感じられる団扇の人気が伝わります。

こうした団扇絵からは、北斎や広重はじめ多くの人気絵師たちのバラエティに富む動物画の団扇が、江戸の人々の暮らしをいろどったことも伝わってくるのではないでしょうか。

文:赤木美智(太田記念美術館主幹学芸員)


※「アニマルデザイの扇 5選」はこちら。

※今回ご紹介した団扇絵は『浮世絵動物園』に収録されています。


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