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浮世絵の虹は7色かどうか数えてみた

虹の色の数を聞かれたら、赤・橙・黃・緑・青・藍・紫の7色であると答える人は多いでしょう。しかし、日本以外の国の人に聞いてみると、例えばアメリカやイギリスであれば6色、ドイツであれば5色といったように、国や民族によって頭に思い浮かぶ虹の色の数は異なるそうです。

では、江戸時代の人たちにとって虹はどのように見えていたのでしょうか。浮世絵には、それほど数は多くありませんが、ときどき虹が描かれています。浮世絵に描かれた虹の色を数えてみることにしましょう。

①歌川国芳「東都名所 するがだひ」

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場所は駿河台。降っていた雨がちょうど止んだのでしょう。坂道を歩く武士とそのお付きの者が虹を見上げています。

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全体を見ると虹は白っぽい色にしか見えませんが、拡大してみると、ほのかに色が摺られていることが分かります。退色してしまったためはっきりと分かりませんが、上から薄い赤、薄い緑、薄い黄もしくは紙の地を活かした白の3色のようです。

②歌川広重「名所江戸百景 高輪うしまち」

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高輪海岸から江戸湾を眺めています。手前の子犬が可愛らしいですが、虹が描かれた浮世絵としても有名です。

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これも色がはっきりと分かりませんが、上から、紙の地の白、黄、薄い青のように見えます。

③歌川広重「東都名所 芝愛宕山上之図」

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こちらも広重の作品。芝にある愛宕山の山頂から江戸の町を見下ろしています。摺りが遅いため、全体的に色がやや濃く摺られています。

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虹は、上から、濃い緑、薄い緑、薄い赤となっており、薄い緑と薄い赤が重なって全部で4色あるように見えます。

④歌川広重「六十余州名所図会 対馬 海岸夕晴」

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こちらも広重。場所は長崎県の対馬です。広重は実際に訪れてはいませんので、想像もしくは資料を参考にして描いたのでしょう。「夕晴」と題名にありますので、夕立の後に出た虹でしょう。

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上から、薄い赤、黄色、薄い青色の3色となっています。黄色と青が重なっているところは緑色にも見えます。

⑤歌川芳艶「東海道 程ヶ谷其二」

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東海道の程ヶ谷宿が舞台です。人足たちがもみくちゃになって喧嘩をしています。空には、これまで紹介したどの浮世絵よりも太い虹が出ています。

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上から薄い赤、薄い青、黄の3色です。青と黄が重なっているところは緑になっており、4色にも見えます。

以上、虹が描かれた浮世絵5点を紹介しました。虹の色の数は3~4色。色の順番は実際の虹とは異なり、同じ絵師の作品でも違いがあることが分かります。

そもそもこの細い曲線を綺麗にぼかしたり、何色もの色を使って摺り分けるのは、摺師にとって面倒な作業でした。できるだけ使う色を少なくして最大限の効果をもたらそうと工夫していたのでしょう。

では、江戸時代、虹の色はいくつと考えられていたのでしょうか。絵師であり蘭学者であった司馬江漢が執筆した『和蘭天説』(寛政8年 (1796)刊)には、虹の色は黄・紅・緑・紫・青の5色であると記されています。

虹は微薄の雨に日光の映射して五彩をなす。朝西に雨ふる時は虹をなす。晩は東にあり。試みに日人をして西にあらば東に向て水を噴しむれば即ち虹の象ち(かたち)をなす。黄色、紅色、緑色、紫色、青色なり。
※読みやすいように、片仮名を平仮名に、句読点や送り仮名を追加しています。下記のリンク先は早稲田大学図書館ですhttps://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/ni05/ni05_02428/ni05_02428_p0026.jpg

当時の一般の人たちがこの情報をどの程度知っていたのかは分かりませんが、少なくとも江戸時代には、虹が7色であるという認識はありませんでした。同じ虹でも、時代が変われば、その色の数は変わるようです。

さて、太田記念美術館では、浮世絵に描かれた天候にスポットを当てた「江戸の天気」展を、2021年6月26日(土)~8月29日(日)に開催しました。現在はオンライン展覧会としてご覧いただけますので、江戸の天気にご興味のある方はご利用ください。ただし、今回ご紹介した作品は、展覧会に出品しないものも含んでおりますので、ご注意ください。

文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)

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