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太田記念美術館の2021年度展覧会の見どころをご紹介します。

太田記念美術館の2021年度の展覧会スケジュールが決定しました。その見どころをご紹介いたします。

ただし、題名は決まったものの、具体的な展示内容はまだこれからという展覧会がいくつもあります。そのため、ここで紹介している作品が出品されなくなったり、展示スケジュール自体が大幅に変更されたりすることもございますので、なにとぞご了承ください。

2021年間スケジュール表のコピー

※入館料や開館時間、アクセスなどは、美術館のホームページをご覧下さい。

江戸の敗者たち

4/15(木)~5/16(日)

「敗者」というと、マイナスなイメージを思い浮かべるかもしれませんが、歴史の中では、常に勝者と敗者が生み出されます。浮世絵の武者絵や歴史画においても、勝者だけでなく、敗者の存在も欠かすことはできません。時には、源義経や明智光秀、高師直(吉良上野介)のように、敗れた側として語られる人物が、人々の記憶に深く残ることも珍しくないでしょう。

太田記念美術館では、2015年と2018年に「江戸の悪」という展覧会を開催しましたが、今回は「敗者」というキーワードから、武者絵や歴史画、役者絵を読み解きます。近年、歴史学でも「敗者」の視点が注目されていますが、浮世絵も「敗者」に注目することによって新しい発見があるかもしれません。

なお、「江戸の敗者たち」という題名ですが、厳密には浮世絵に描かれた敗者たちを紹介することになりますので、江戸時代以前の人物も数多く登場します。大目に見ていただければ幸いです。

こちらは歌川豊宣の「新撰太閤記 此人にして此病あり」。織田信長に打擲される明智光秀です。

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鏑木清方と鰭崎英朋 近代文学を彩る口絵 朝日智雄コレクション

5/21(金)~6/20(日)

昨年の2020年2月15日から開催したこちらの展覧会。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、まだ会期を3週間以上残していたにも関わらず、2月29日で展示が中断してしまいました。

明治後期から大正初期、文芸雑誌や小説の単行本を華やかに彩った木版口絵。鏑木清方や鰭崎英朋のほか、武内桂舟や梶田半古、水野年方など、実力のある絵師たちが揃っていますが、正直、浮世絵の研究者たちの間でも木版口絵は十分に認知されておりません。

しかし、マイナーな分野であるからこそ、浮世絵の専門美術館として積極的に紹介していかねばなりません。木版口絵の魅力をぜひ知っていただきたく、再びの開催を実現させました。

なお、展覧会図録は、重版の予定がなく、会期中の売り切れが予想されます。すでに美術館受付にて販売しておりますので、ご入用の方は今のうちのご購入をお勧めします。

清方と英朋ちらしのコピー

江戸の天気

前期6/26(土)~7/25(日)  後期7/30(金)~8/29(日)

太田記念美術館でもっとも所蔵点数が多い浮世絵師が、歌川広重。そのため、歌川広重を中心とした風景画の展覧会はこれまで何度も行ってきましたが、今回はちょっと視点を変えて、「天気」に注目します。

快晴、どしゃ降り、虹。風景が描かれる時、そこには、四季折々の季節や空模様が表現されています。歌川広重や葛飾北斎、小林清親らの作品を中心に、江戸の天気をご紹介します。

こちらは「名所江戸百景 高輪うしまち」。空に大きな虹がかかっています。

4475 歌川広重

没後160年記念 歌川国芳

前期9/4(土)~9/26(日)  後期10/1(金)~10/24(日)

歌川国芳が亡くなったのが文久元年(1861)ですので、2021年はちょうど没後160年にあたります。それを記念して、武者絵や風景画、戯画など、国芳の明るく楽しい、多彩な作品を紹介します。

国芳の大きな魅力となるネコの浮世絵も展示予定。2020年に開催計画をしていた「江戸にゃんこ」展を期待されていた方々。諸般の事情により、開催時期未定となってしまいましたが、今年度は「没後160年記念 歌川国芳」展にて、ネコの浮世絵をお楽しみください。

こちらは歌川国芳「東海道五十三対 桑名 船のり徳蔵の伝」。

11802歌川国芳

河鍋暁斎 ―躍動する絵本

前期10/29(金)~11/23(火)  後期11/27(土)~12/19(日)

河鍋暁斎の下絵に注目した、東京ステーションギャラリーの「河鍋暁斎の底力」展も記憶に新しいように、河鍋暁斎の才能は多岐に渡ります。肉筆画や版画はこれまで多くの展覧会で展示されていますが、今回の展覧会では、紹介されることの少ない、画譜や絵手本といった「絵本」に着目します。

絵本の題材は、人物や動植物、風景など、さまざまな題材にあふれています。中には、下絵と同様、暁斎のテクニックの秘密を読み取れる作品もたくさんあります。特に、現在、絵を学んでいる人たちに見ていただきたい展覧会です。

こちらは河鍋暁斎『暁斎画談 内篇』。人間の裸体を墨の線で、まとっている和服を朱の線で示しています。

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江戸の恋

1/5(水)~1/30(日)

若い男女の初々しい恋、来世での縁を信じて死を選ぶ遊女。江戸時代には、あらゆる身分の男女の恋が歌舞伎や浄瑠璃で演じられ、浮世絵にも描かれました。激しい慕情につき動かされた、江戸の恋物語をご紹介します。

こちらは鈴木春信の「蚊帳の内外」。蚊帳の中にいる女性が、そそくさと帰ろうとする青年を懸命にひきとめようとする、せつない恋の一場面です。

069 2565 鈴木春信

信じるココロ ―信仰・迷信・噂話

2/4(火)~2/27(日)

昨年はアマビエが話題となりましたが、浮世絵には江戸時代の人々が信じていたさまざまな対象が描かれました。富士詣や流行神のような民衆信仰から、鯰が地震を起こすなどの迷信、あるいや妖怪や幽霊の噂話まで。浮世絵にあらわれた「信じるココロ」の諸相を探ります。

こちらは初出品となる浮世絵版アマビエ?の「海出人之図」。この絵の詳細は後日ご紹介します。

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赤 ―色が語る浮世絵の歴史

3/4(金)~3/27(日)

太田記念美術館ではこれまで、「広重ブルー 世界を魅了した青」や「青のある暮らしー着物・器・雑貨」など、「青」に注目した展覧会を行なってきました。

そこで今回は「赤」という絵具に注目します。浮世絵の歴史をたどると、「紅絵」や「紅摺絵」を経て錦絵(多色摺木版画)が誕生したように、紅=赤は象徴的な色でした。さらに、明治時代になると「赤絵」と呼ばれるどぎつい赤色を用いた浮世絵も登場しています。赤い絵具に注目することで明らかとなってくる、浮世絵のワザと歴史をご紹介します。

こちらは月岡芳年の「美立七曜星 満月」。明治時代の作品らしい、派手な赤色が特徴です。

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以上、太田記念美術館の2021年度の展示スケジュールをご紹介しました。オンライン展覧会の実施も計画しておりますので、さまざまなかたちで展覧会をお楽しみください。

文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)


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