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【オンライン展覧会】「江戸の天気」展(通期)

江戸の天気チラシ

 太田記念美術館にて、2021年6月26日(土)~8月29日(日)開催の「江戸の天気」展のオンライン展覧会です。展覧会は前期と後期で全点展示替えを行いますが、本オンライン展覧会では、画像は前期56点、後期57点の全113点を掲載しています。
 note上では、画像をクリックすると、より大きなサイズでご覧いただけますので、美術館で実物をご覧いただくようにお楽しみいただけます。
 オンライン展覧会の入館料は、1400円です。無料公開の下にある「記事を購入する」をクリックしてご購入ください。一度記事をご購入されると無期限でご覧いただけます。             
 いつでも、どこでも、好きな時に「江戸の天気」展をご鑑賞ください。

 なお、前期と後期、それぞれの画像と解説を掲載したオンライン展覧会「江戸の天気」展(前期)、同(後期)を各800円にて配信しております。どちらかのみをご覧になりたい方は、こちらをご利用ください。(内容は通期に掲載しているものと同じです)

展示作品リストはコチラ↓からご覧ください。          http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/wp-content/uploads/2021/06/tenki-list.pdf


はじめに

 浮世絵にはさまざまな気象現象が描き込まれています。晴れわたる空、土砂降りの雨、しんしんと降る雪、雨あがりの虹。刻々と変わる天気を、浮世絵師たちは繊細な色彩の変化によって、あるいは大胆にデフォルメし表現してきました。
 日本の、季節によって変化する多様な気候は、今も昔も人々の暮らしにも大きな影響をあたえています。江戸時代には大雨による洪水が度々おこり、また予期せぬ天候不順が飢饉を招くこともありました。科学の発達した現代においても、私達は天候をコントロールすることはできません。天気予報を頼りに日々の気象の変化に備えていますが、近年では大雨や酷暑など異常気象が話題となり、気候変動への関心も高まりつつあります。
 本展では、絵の中の天気に注目し、葛飾北斎や歌川広重、小林清親らの手によって生み出された風景画をご紹介いたします。浮世絵師たちの個性あふれる表現を通して、うつろう空模様を愛でる日本人の美意識はもちろん、時には風雨に翻弄されながらも繰り広げられた人々の営みにも触れていただけることでしょう。

小雨から雷雨まで、雨をテーマとした浮世絵作品はとても多彩です。絵師にとっては形にしづらいさまざまな雨をいかに再現するかは腕の見せどころであり、その観察眼は雨の前後で微妙に変化する空模様へも向けられました。また突然の雨によって日常がドラマチックに変化する様子をとらえ名作の多い、夕立をテーマとした作品にも注目です。

№1 歌川広重「名所江戸百景 高輪うしまち」大判 安政4年(1857)4月

003 4475歌川広重

空に虹がかかる雨あがりの情景。雨後のみずみずしい空気のなか、牛車(うしぐるま)の下では愛らしい2匹の子犬が戯れています。牛町(現在の港区)は正式には車町といい、牛車を使った運搬業の人足が多かったことからこの名が付きました。とはいえ画面に人気はなく、先程まで降っていた雨の激しさがうかがわれます。

№2 小林清親 「武蔵百景之内 隅田川水神森」大判 明治17年(1884)1月  ※後期展示

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題名にある水神とは隅田川東岸にあった水神社(現・墨田区隅田川神社)のこと。座敷のすぐ外では雫がしたたり落ちつい先程までこの辺は雨だったようですが、今、雨雲は画面奥で激しい雨を降らせています。降雨と雨後の情景をともに描き、雨雲の移動をも表現した趣向が面白い作品。雨が去った後の爽やかな空気のなか当時流行していた月琴の風雅な姿が際立ちます。

№3 葛飾北斎「冨嶽三十六景 山下白雨」大判 天保1~4年(1830~33)頃

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わずかに雪が残る富士山の山頂付近は雲ひとつない青空。一方で山麓は真っ黒な雲に覆われ、白雨、すなわち突然のにわか雨に襲われていることが示されています。暗雲を切り裂くのは、極端なまでにデザイン化された稲妻。快晴と雷雨という異なる天気を、富士山というモチーフを通して一つの画面の中で表現した、北斎の卓越した発想力が結実した快作です。

№4 歌川広重 「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」大判 安政4年(1857)9月 ※後期展示

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隅田川に架かる新大橋を見舞う夕立と慌てる人々をとらえ、雨を描く絵画の名作として知られる1点。画面を覆い尽くす雨脚は、角度と濃淡の異なる2種の線を2枚の版木に彫って摺り出しています。靄にかすむ対岸の安宅(あたけ)の描写は雨の強さと奥行きも表しており、激しい雨とそれに翻弄される人々の様子が、広重の鋭い観察眼と練磨された構成力によって再現されています。

№5 歌川広重 「名所江戸百景 駒形堂吾嬬橋」大判 安政4年(1857)1月

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雨とホトトギスの組み合わせは初夏の景を描く浮世絵で好まれ、駒形とホトトギスの組み合わせは17世紀半ばの遊女、二代目高尾太夫の詠んだ句にちなむもの。また、ぼかしを用いた対岸の明るい空や胡粉の白い線による雨脚は、小雨であることを物語ります。本作の雨空には、江戸のもつ歴史や文化、そして浮世絵の彫摺の高い技巧も盛り込まれていると言えるでしょう。

№6 歌川広重「名所江戸百景 昌平橋聖堂神田川」大判 安政4年(1857)9月 ※後期展示

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昌平橋を手前に、現在の秋葉原方面から御茶ノ水方面を眺めています。神田川の奥に見えるのが昌平坂。白壁と森の奥には昌平坂学問所や湯島聖堂があります。雨がぱらぱらと降っており登場する人々も笠や蓑を身に着けていますが、画面奥、西の空は明るく、雨はもうすぐやむのかもしれません。

№7 歌川広重「東都名所 日本橋之白雨」大判 天保3~10年(1832~39)頃 ※後期展示

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題名にある白雨とは、突然のにわか雨のこと。笠をかぶった行商人や、傘をさす人々が足早に日本橋をわたっていきます。ただし日本橋川の水面は青く澄んでいますから、空は雨雲で厚く覆われているわけではないようです。

№8 喜多川歌麿 『絵本四季花』半紙本2冊 寛政13年(1801)1月 ※後期展示

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喜多川歌麿が女性の四季風俗を描いた絵本から、土砂降りとなった夏の日を描いた一図。雨脚は黒一色で摺られ、線と線の幅は狭く、雨脚の強さが表現されています。耳をふさいで蚊帳に入り込む女性や泣く子供の姿も見え、雷が鳴っているのがうかがわれます。男性は雨戸を閉めるところですが、重いのかその手足には力がこもります。

№9 歌川国貞「 夕立景」 大判3枚続 文政8年(1825)頃 ※後期展示

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№8の歌麿の作品をふまえた作品。蚊帳をつるす母親、母親にすがる子供や耳をふさいで蚊帳に入る女性が描かれます。面白いのは、赤い稲光が生き物のように室内に入り込む表現。縁側に降りつける雨や画面右に流される蚊遣の煙も、風雨の強さを表しています。ちなみに雨戸を閉めるのが本図では女性となり、美人画としての体裁が整えられています。

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