見出し画像

【オンライン展覧会】月岡芳年 月百姿

太田記念美術館にて、2024年4月3日~5月26日開催の「月岡芳年 月百姿」展のオンライン展覧会です。

note上では、画像をクリックすると、より大きなサイズでご覧いただけますので、美術館で実物をご覧いただくような感覚でお楽しみいただけます。
オンライン展覧会の入館料は1,800円です。無料公開の下にある「記事を購入する」をクリックしてご購入ください。一度記事をご購入されると無期限でご覧いただけます。いつでも、どこでも、お好きな時に「月岡芳年 月百姿」展をご鑑賞いただけます。

※後期展示作品の解説は後期展示スタート後にアップいたします。

展示作品リストはこちら→http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/wp-content/uploads/2024/04/tsukihyakushi-list.pdf


はじめに

 月岡芳年(1839~92)は、幕末から明治前半にかけて活躍した浮世絵師です。師匠である歌川国芳の作風を継承した武者絵や歴史画を得意とし、最盛期には、数多いる浮世絵師の中でもトップの人気を誇りました。まさしく明治を代表する浮世絵師と言えるでしょう。
 その芳年が最晩年に精力を注ぎ込み、病に伏せながらも完成させた傑作が、明治18~25年(1885~92)、数え47~54歳の時に刊行した「月百姿」です。「月百姿」は、題名の通り、月にちなんだ物語を題材とした、全部で100点からなるシリーズです。平安時代の美女や戦国時代の武将たち、あるいは幽霊や妖怪といった不可思議な存在など、いずれも月を題材にしていますが、描かれるテーマは驚くほどヴァリエーション豊かです。
 本展覧会では、月岡芳年の「月百姿」全100点を、前期と後期に分けてすべて展示いたします。「月百姿」の世界をより深くご理解していただけるよう、①暮らし、②音曲・謡曲、③武将、④和歌・俳諧、⑤日本の物語、⑥中国の物語といった6つのカテゴリーに分類し、紹介しています。
 さらに、本展では、芳年の「月百姿」に続いて刊行された、芳年の門人である水野年方の「三十六佳撰」、ならびに新井芳宗の「撰雪六六談」もあわせて紹介いたします。
 「月百姿」の大胆な構図が生み出す迫力や、月夜の静けさがしみわたるような静謐感を、ぜひじっくりご堪能ください。

第1章 月と暮らし

夜空に輝く月は古くから人々に愛でられ、日々の暮らしと結びついた文化や風習が生み出されてきました。「月百姿」の多くは、日本や中国に伝わるさまざまな故事や歴史、物語を題材にしていますが、中には人々の何気ない日常の一コマやにぎやかな祭りの様子を描いた作品も含まれています。全100点で構成される月岡芳年の「月百姿」。まずは、人々の暮らしのそばにあった「月」を眺めてみることから始めましょう。

月岡芳年「月百姿 神事残月 旧山王祭」御届明治19年(1886)6月5日 ※前期

描かれるのは江戸時代の山王祭。隔年6月15日に行われた山王権現(現在の日枝神社)の祭礼で、祭りの際には江戸城への入城が許可され、将軍の上覧もあったことから、庶民たちは躍起になって華美を競い合いました。図に描かれる山車には加茂能人形が乗っており、御幣(ごへい)を掲げる先には残月が空に浮かんでいます。祭りが始まった朝の光景を描いた一作です。

月岡芳年「月百姿 四條納凉」御届明治18年(1885)12月 ※前期

京都・四条河原で納涼する美人を描いた一作。川床に座り、手拭を左肩に掛け、左手で裾を上げながら片足を川に浸しています。髪を簪、笄、櫛で飾っており、髷先をやや高くしているのは上方のヘアスタイルの特徴です。赤の襦袢の上に着る浴衣には波千鳥の模様があしらわれており、夏の季節に合った涼しさを感じさせます。

月岡芳年「月百姿 廓の月」御届明治19年(1886)3月 ※前期

吉原遊郭を描いた一作。毎年3月(旧暦)になると、メインストリートである仲の町の通りには桜が移植され、訪れる人々を楽しませていました。図では、夜桜が舞い散るなか、満月と行灯の明りに照らされている花魁と禿の姿が、幻想的に表現されています。

月岡芳年「つきの百姿 たのしみは夕顔だなのゆふ涼男はててら女はふたのして」明治23年(1890)10月印刷・出版 ※前期

夏の夜、月見をする夫婦が描かれます。夕顔棚の元に敷かれた筵には、鉄瓶と猪口が置かれており、晩酌を楽しんでいるのでしょう。男性は右手に団扇を持ち、月を見上げて女性に語りかけます。女性は幼児を抱え、乳をあげながら、男の話に耳を傾けています。題名に「男はててら女はふたのして」とありますが、「ててら」は褌、「ふたの」は腰巻のことを指します。

月岡芳年「月百姿 猿楽月」明治24年(1891)1月15日印刷・明治25年(1892)4月出版 ※前期

猿楽とは、江戸時代以前の能楽の呼称。本作では長裃を着た男性の監視下、町入能に急ぐ町人たちが描かれます。町入能は将軍家の慶事に際して行われ、江戸城に招待された町人たちに能鑑賞の機会を与えた催事。公演は雨天でも決行されたことから、天気に関わらず傘が配られました。人々は裃に正装し、能の舞台を見られることに胸を躍らせながら走り出しています。

月岡芳年「月百姿 烟中月」御届明治19年(1886)2月 ※後期

月岡芳年「月百姿 名月や畳の上に松の影 其角」御届明治18年(1885)10月 ※後期

月岡芳年「つき百姿 しばゐまちの暁月」御届明治19年(1886) ※後期

月岡芳年「月百姿 調布里の月」明治24年(1891)6月印刷・出版 ※後期

月岡芳年「つき百姿 盆の月」御届明治20年(1887)1月6日 ※後期

ここから先は

20,931字 / 157画像

¥ 1,800

新型コロナの影響で入館者数が大幅に減少しております。これからも美術館の運営を続けていくため、ご支援のほど、よろしくお願いいたします。