江戸時代の雪だるまは「だるま」だったというお話
皆さんは雪だるまと聞いて、どのような形を思い浮かべますか?丸い雪玉を2段重ねて、頭にバケツ、鼻にはニンジン、手袋をさした木の枝の腕といった姿が連想されるのではないでしょうか?
江戸時代も雪が降ると、雪だるまを作ることがありました。ただ、現在の私たちが想像する雪だるまとは、ちょっと形が異なっているようです。
こちらが江戸時代の雪だるま。歌川広景「江戸名所道戯尽 廿二 御蔵前の雪」という浮世絵です。安政6年(1859)の作。
文字通り、だるまの形をしています。だるまとは、禅宗の僧侶である達磨が座禅をしている姿をかたどった人形のことです。
雪が積もった蔵前の町に作られた巨大なだるま。男が下駄の鼻緒を結び直そうと、手に持っていた魚とネギを、雪だるまの上にちょっと置いたという場面。腹を空かせた野良犬がくわえて持ち去ろうとしていますが、男は気が付く様子がありません。
また、あの葛飾北斎も雪だるまを描いています。こちらは『狂歌画譜 藐姑射山』という絵本。文政4年(1821)の作。雪が積もった、山の中の家の前です。
家族みんなで雪だるまを作っています。父親が墨でだるまの顔を描いています。やはりこの雪だるまも「だるま」です。雪だるまの後ろにいる子どもは、この雪なのに裸足です。
そもそもなぜ雪のだるまが作られるようになったのでしょうか?1600年代後半に雪だるまが作られたという記述があるようですが、詳しいことは分かっていません。浮世絵を見る限りでは、雪玉を転がしている絵は古くからありますが、雪だるまが登場するようになるのは19世紀に入ってからのようです。
室町時代、中国から伝わった起き上がり小法師が、江戸時代中期、18世紀半ば頃、手足のないだるまの形となり、子どもたちのおもちゃとして広まりました。子どもたちに人気のおもちゃだったからこそ、だるまの形を真似て、雪だるまが作られるようになったのでしょう。
他にも、菊川英山「青楼美人雪月花 扇屋内華窓」にも雪だるまが。
花魁が筆をもっているところを見ると、花魁がこのだるまの顔を描いたようですね。
ちなみに、雪で作った像は、だるまだけではありません。例えばこちらの歌川国貞と歌川広重の合作「東源氏雪乃庭」では、雪のウサギが作られています。
武家屋敷の広大な庭で、女性たちが一生懸命作っています。赤い盃をウサギの目玉にするようです。
他にも、浮世絵の中には、雪で作られた巨大なネコや獅子、カエルも登場します。ぜひ探してみてください。
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文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)