年末の大掃除で動物たちも大忙しです。
年の暮れ、大掃除に追われているご家庭も多いかと思いますが、実は、人間の世界だけでなく、動物の世界も大掃除で大忙しです。こちらは、歌川国芳の門人である歌川芳艶が描いた「獣すすはきのず」。いろいろな動物たちが協力しながら、みんなで大掃除をしています。
「煤掃き(すすはき)」あるいは「煤払い(すすはらい)」とは、新年を迎える準備として、家の中に溜まったすすやほこりを払う行事のこと。江戸時代では12月下旬ではなく、12月13日に行なうのが恒例でした。
それでは動物たちがどのように掃除をしているのか、見てみることにしましょう。
まずは画面の真ん中にいる5匹の小ダヌキたち。外に積んだ畳を、細い棒で叩いてほこりを払っています。小ダヌキには見えない、しっかりとした体格のタヌキたちです。手ぬぐいや鉢巻を頭に巻いています。
その右隣には、山ほど積まれたお盆を運んでいる動物が。名前がありませんが、こちらも顔から察するに小ダヌキでしょうか。煤払いの後には蕎麦がふるまわれたことがあったそうなので、蕎麦を出前しているのでしょう。それにしてもかなりの量。バランスよく運ぶのは大変そうです。
さらに、小ダヌキと区別がつかないくらいにそっくりな「川うす」こと、カワウソがいます。大きな箱を肩に担いで、部屋から運び出しています。
画面の右端では、ヒツジが紙くずを拾っています。細い竹の棒でつまみ、手に持った竹かごに入れています。江戸っ子だからなのか、名前は「ひつじ」ではなく「しつじ」と書かれています。
部屋の中を見てみましょう。画面の右上で台に乗って背伸びしているのはイヌ。神棚を掃除しようとしているようです。飾られている火立をどかして、これからほこりを払うのでしょう。腰にはたきを挿しています。
イヌの隣にはハツカネズミとトラが。身軽なハツカネズミは梯子を登っています。天井裏の掃除をするのでしょうか。トラは長い笹竹を使って、高いところのほこりを払っています。この笹竹は、現在でも、寺や神社で煤払いをする際に用いられることがあります。
ネコも箒を使ってほこりを払っています。大掃除となれば、やはりネコの手も借りたくなります。真剣に掃除をしていますね。ちなみに頭にかぶっているのは菓子袋。手ぬぐい代わりにかぶっているのでしょう。江戸時代のネコも小さな袋が好きだったようで、菓子袋に頭を入れている姿が浮世絵の中にしばしば描かれています。
左端にいるシカが外しているのは、筆がデザインされた大きな板。この店が筆屋であることを伝えている絵看板です。店先に吊るされた絵看板をわざわざ外し、細かいところまで掃除するようです。
ウシとゾウは2匹で協力して、巨大な桶を担いでいます。真正面から捉えたウシ、あまりウシっぽく見えませんね。
サルは井戸からポンプで水を汲み出しているようです。
最後に紹介するのは、左下のイノシシです。桶を運んでいる最中のようです。重たくてフラフラしているのか、なぜか右手を前にかざしています。いったい何を運んでいるのでしょう。
以上、動物たちの大掃除を紹介してきました。私たちも動物たちを見習って、大掃除を頑張りましょう!
文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)