【オンライン展覧会】「異世界への誘いー妖怪・霊界・異国ー」展
太田記念美術館にて、2019年8月2日~8月28日に開催された「異世界への誘い ―妖怪・霊界・異国」展のアーカイブです。実際に展示した全71点の画像、ならびに作品解説を掲載しています。
note上では、画像をクリックすると、より大きなサイズでご覧いただけますので、美術館で実物をご覧いただくようにお楽しみいただけます。
オンライン展覧会の入館料は800円です。無料公開の下にある「記事を購入する」をクリックしてご購入ください。一度記事をご購入されると無期限でご覧いただけます。
いつでも、どこでも、好きな時に「異世界への誘い」展をご鑑賞ください。
展示作品リストはこちら
→ http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/wp-content/uploads/2019/08/isekailist.pdf
※2021年5月4日、5点の作品を追加コンテンツとして巻末に加えました。
はじめに
浮世絵では、人気の歌舞伎役者や花魁、あるいは、大勢の人でにぎわう名所など、楽しくも儚い「浮世」に実在するものが、主な題材となっています。
しかしながら、浮世絵は必ずしも現実の世界だけをテーマにしているわけではありません。時には、私たちの暮らす世界とは全く異なる「異世界」の風景、あるいは「異世界」からやって来たキャラクターたちも描き出されているのです。現在、異世界に転生するファンタジー小説が人気ですが、江戸や明治時代の人々も、浮世絵を通してさまざまな「異世界」に接していたと言えるでしょう。
本展では、妖怪、霊界、異国という3つのキーワードを通して、皆さまを浮世絵の中に描かれた異世界へとご案内いたします。現実とは異なる、不思議な世界との出会いをどうぞお楽しみください。
第1章 妖怪―異形の存在との出会い
浮世絵には、人間を驚かせたり、襲いかかったりしようとする妖怪たちがしばしば描かれています。その姿は、時にはおどろおどろしく不気味であったり、時には笑いを誘うようなユーモラスな表情をしたりしています。また、そのような異形の存在に出会った人間たちが、恐怖することなく毅然とした態度で立ち向かい、逆に相手をこらしめるという物語が、しばしば浮世絵には描かれています。本章では、人間たちとは異なる世界の住人である妖怪たちの姿をご紹介します。
№1 勝川春亭「素戔嗚尊と山田大蛇」大判3枚続 文政年間(1818-24)初期
ヤマタノオロチの生贄となる稲田姫を救うため、素戔嗚尊(すさのおのみこと)がヤマタノオロチを酒に酔わせて退治したという神話の一場面。暗雲が立ち込め、刺すような風が吹き荒れる様子が、黒色で巧みに表現されており、見る者を激しい戦いの中に誘うような効果が光る。この戦いの後、素戔嗚尊は、ヤマタノオロチの尾から、三種の神器のひとつである草薙剣(くさなぎのつるぎ)を得る。
№2 歌川国貞(三代豊国)「中村雀之助の千嵜弥五郎 十三代目市村羽左衛門の古猫の怪 四代目中村芝翫の須波数右衛門」大判3枚続 文久元年(1861)7月
文久元年(1861)7月に市村座で公演した「東駅いろは日記」に取材。画面中央の巨大な化け猫は墨で描かれ、ぼうっと闇に光る双眸が怪しい迫力を生んでいる。古猫の怪を演じる中央の十三代目市村羽左衛門(後の五代目尾上菊五郎)は手足をくねらせ、猫が乗り移っている様子がうかがえる。手拭いを頭にかぶって踊る、猫又(猫の妖怪)の可愛らしい動きにも注目してほしい。
№3 歌川国芳「仁田四郎富士の人穴に入る」大判3枚続 弘化2年(1845)頃
鎌倉時代の武将・仁田四郎忠常が、将軍の源頼家に富士山の人穴の調査を命じられ、家臣を連れて探索に出かけた。人穴の中は非常に険しく、鋭い岩肌がひしめく様子が不気味に描かれている。川の対岸にいるのは浅間大菩薩。人間をこれ以上立ち入らせないために発せられた光によって、忠常の家臣らは次々に倒れてしまう。忠常は頼家から賜った剣を川に投げ入れることで、命からがら脱出することができた。
№4 歌川国芳「東海道五十三対 桑名 船のり徳蔵の伝」大判 弘化元~4年(1844-47)
大坂の船頭・桑名屋徳蔵が海坊主と遭遇して、問答の末にこれを退散させたという伝承を描く。海坊主は墨一色で目玉だけがぼんやりと見え、細かい描きこみは一切ないがが、大海原から突如現れる黒い影が不気味さを際立たせている。大晦日には船を出さない決まりを破った徳蔵に、海坊主は怖くないのかと尋ねるが、徳蔵は世の中で生きていくことの方がよほど怖いと言い返し、海坊主は逆に恐れをなして逃げ出した。
№5 歌川国芳「東海道五十三対 草津」大判 弘化元~4年(1844-47)
藤原秀郷(俵藤太)が三上山の百足(むかで)を退治したという伝説の絵画化。龍神一族の女が大蛇に化けて瀬田の唐橋に横たわっていたところ、藤原秀郷は恐れもせずに踏みつけて通った。その勇敢さを見込んだ龍女が、秀郷に百足退治を願っているという場面。龍女は美しい女性の姿となって水面の上に浮かんでいるが、よく見ると水の下には本当の姿がうっすらと見えている。なお、画面の左上には百足が描かれる。
№6 歌川国芳「三国妖狐図会 蘇姐巳驛堂に被魅」大判 嘉永2~3年(1849-50)
金毛九尾の狐は、中国や天竺で美女に化けて時の権力者に近づき、国を滅亡に導いてきた。本図は、寿羊女が殷の紂王の元に向かう旅の途中、九尾の狐が寝床に忍び込み寿羊女と入れ替わった場面。気づいた侍女が飛びかかろうとするが、この後、逆に蹴り殺されてしまう。床やカーテンが中国風の文様で埋め尽くされ、華やかな印象を与えている。この後、寿羊女は妲己と名前を改め、紂王をたぶらかす。
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