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広重の雪の浮世絵、ベスト4を選んでみた

雪景色を描くのがもっとも上手い浮世絵師は誰かかと問われれば、やはり歌川広重が筆頭にあげられるでしょう。しかも、ただ単に雪景色をたくさん描いているだけでなく、その構図は作品によってさまざまに工夫が凝らされています。そこで、広重の雪の浮世絵から、傑作の4点を筆者の個人的な好みで選んでみました。あなたはどの雪景色が一番好きですか?

※記事の最後に人気投票結果があります。かなりの接戦になっていますので、ぜひご覧ください。

①歌川広重「東海道五拾三次之内 蒲原 夜之雪」

まずは広重の代表作である「東海道五拾三次之内」の中でも、もっとも有名な1点から。現在の静岡県静岡市清水区にある蒲原という宿場町の雪景色です。

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絶え間なく雪が降る中、村人たちはうつむいた姿勢で黙々と歩いています。道沿いの屋敷の戸はすべて閉じられ、辺り一面には静寂が漂っています。ただ聞こえるのは、彼らが雪を踏む足音だけです。

蒲原は比較的温暖な海岸近くにあるため、このように雪が降り積もることはほとんどないそうです。おそらく広重は、実際に蒲原でこの雪景色を見たのではなく、想像で描いたのでしょう。

ちなみに、先に紹介した太田記念美術館所蔵の作品は、初摺ではありません。下に掲載したメトロポリタン美術館所蔵の作品が初摺です。違いがお分かりになるでしょうか?

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実は空のぼかし方が異なっています。初摺では空の大部分がグレーで、一番上の部分だけに、黒色の一文字ぼかしが施されています。これが後摺になると、空の下半分が真っ黒で、上にいくに従い、薄いグレーとなります。おそらく、夜の雰囲気をよりはっきりと出すために、空の色を途中で変更したのでしょう。

②歌川広重「木曽路之山川」

2番目は、大判3枚続という横長の大きな画面いっぱいに描いた、広大な雪景色です。

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場所は、中山道の馬籠宿(現在の岐阜県中津川市)と妻籠宿(現代の長野県木曽郡南木曽町)の境にある馬籠峠付近です。

画面の右下にある橋の上を渡っている人が、小さく描かれています。いかに広大な景色を描いているかが分かるでしょう。見る人に向かって迫ってくるような、雪が降り積もった山々のボリューム感が印象的な作品です。

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ちなみに、実はこの作品には種本ではないかと指摘されている図があります。『木曾路名所図会』という絵本の一図です。(鈴木重三『広重』日本経済新聞社、1970年。図版は国会図書館蔵の『大日本地誌体系 諸国叢書木曾之壱』より。)

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右端の桟道や川に架かる橋、滝など、いくつか一致している点が認められます。しかしながら、この墨摺の挿絵を元にしながらも、白い雪が強烈な存在感を見せる浮世絵に改変することできたのは、やはり広重の類まれなる表現力があってこそでしょう。

③歌川広重「名所江戸百景 浅草金龍山」

「東海道五拾三次之内」が広重の若い頃の代表作とするならば、晩年の代表作となるのが「名所江戸百景」です。有名な作品はいくつもありますが、素晴らしい雪景色がいくつも含まれています。一つは、浅草寺の雷門から仁王門と五重塔を眺めたこちらの作品。

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雷門の真下に立って、雪景色を眺めています。先ほどの「木曽路之山川」のように広大な風景を見渡した作品とは異なり、まるでカメラを構えてそこで見えた景色をそのまま切り取ったかのような作品です。雷門の大きな提灯を画面手前に拡大して描くことで、遠くの仁王門や五重塔との遠近感を誇張させています。

実は、仁王門の屋根や木に積もる雪には、立体感を出すために、空摺という技術が使われているのですが、撮影のライティングが難しく、この写真ではまったく見えません。

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ぜひアダチ版画研究所さん@ukiyoe_adachi のツイートを参照してください。

ちなみに、広重の「名所江戸百景 浅草金龍山」が刊行される前年の安政2年(1855)、安政の大地震が発生し、五重塔の上端の九輪がぐにゃりと曲がってしまいます。広重の浮世絵が刊行された時には、五重塔の修復はちょうど終わっていたのですが、その辺りの顛末については、こちらの過去記事をご覧ください。

④歌川広重「名所江戸百景 深川洲崎十万坪」

最後にご紹介するのは、同じく「名所江戸百景」より。一匹の鷲が大きく翼を広げて悠然と空を舞いながら、真下に広がる雪景色を眺めています。

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鷲が見下ろしているのは、深川洲崎十万坪。現在の東京都江東区千石付近です。かつては海に近く、荒涼とした土地でありました。画面の中には、人っ子一人描かれず、ただ鷲だけが静寂が漂う雪景色を眺めています。

遠くに見えるのは筑波山。二つの頂があるのが特徴で、広重の風景画の中には頻繁に登場します。

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この深川という場所は、江戸時代になってから埋め立てが進んだ場所でした。詳しくは過去記事をご覧ください。

先日、Twitterで人気投票を行いましたところ、ご覧のように①と③がわずか数票差という大接戦でした。皆さんは、どの雪の浮世絵がお好きでしょうか?

こちらの過去記事もあわせてどうぞ。

文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)

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