鳥人たちのお座敷芸を楽しんでみた
落合芳幾の「諸鳥芸づくし」。頭は鳥、体は人間の姿をした鳥人たちが、お座敷芸をしているという、ユーモラスでかわいらしい浮世絵です。今回は、鳥人たちが披露しているお座敷芸を一つ一つ解説してみることにしましょう。
①セキレイ
まずは上の方から見ていくことにしましょう。トップバッターは右上にいる「鶺鴒(せきれい)」。お披露目するのは「尻振り(しりふり)」です。
セキレイといえば、長い尾羽を動かす「尾振り」の動作が特徴。片足立ちでお尻を突き出し、尾羽に見立てた帯を上下に振っています。上手に帯を振れているでしょうか。
②ウソ
2番目は「うそとり」の「うかれめ」です。「うそとり」とは鷽(うそ)、「うかれめ」とは浮かれ女=遊女のことです。
鏡の前で懐紙を片手に品を作る鷽。喉の赤色が色っぽいですが、実際の鷽はオスしか喉は赤くありません。この遊女もメスではなく、実はオスが演じているのでしょうか。
③オウム
3番目は「鸚鵡(おうむ)」の「こはいろ(声色)」。声色とは、歌舞伎役者の声やセリフの癖を真似ることです。
オウムといえば、人の声を真似ることが得意。そのため、歌舞伎役者の声真似ができるよう、名ゼリフを抜き書きした小冊子のことを「鸚鵡石(おうむせき)」と呼んでいます。
④コウモリ
4番目は「こうもり(蝙蝠)」の「さんば」。「さんば」とはブラジルの舞踊のサンバではなく、三番叟(さんばそう)のことです。
三番叟とは、もともと能の「翁」で3番目に出る老人の舞でしたが、歌舞伎や人形浄瑠璃にも取り入れられました。烏帽子をかぶって踊るコウモリ。大きな羽根が三番叟の衣装の上衣を連想させます。
ちなみに、このコウモリにだけ「わたしも鳥の仲間さ ご愛敬にちょいと出ました」というセリフがあります。コウモリは哺乳類ですので、現代の分類では鳥の仲間ではありませんが、江戸時代のコウモリですので、鳥の仲間だと主張しているのでしょう。
⑤フクロウ
5番目は「鴟鴞(ふくろう)」の「百まなこ」。百眼(ひゃくまなこ)とは、目鬘(めかつら)という顔の上半分だけを覆う仮面をいろいろ取り替え、目つきを変えることで笑いを誘う芸のこと。
丸い大きな目玉が特徴のフクロウ。フクロウらしいクリっとした目玉の目鬘をつけています。さらに膝元には、違った目の形をした目鬘も用意してあります。
⑥メジロ
お次は「めじろ」の「おしあい」。2羽のメジロが互いにお尻を突き出して押し合う、尻相撲をしています。
多くの人や物が込み合って並ぶ「目白押し」という言葉の由来になったように、メジロは木の上で押し合うように並ぶのが特徴です。それを見立てて、尻相撲をしているのでしょう。
⑦スズメ
お次は「雀(すずめ)」の「おどり」。着物の裾を端折り、片足を上げて飛び跳ねています。
地面を歩く時、ちょんちょんと踊るように飛び跳ねるのが特徴のスズメ。やはり踊りが一番得意のようです。
⑧ヤマガラ
最後は「山雀(やまがら)」の「うたがるた」。床に散らばったカルタを選んでいます。
江戸時代、ヤマガラにいろいろな芸を仕込ませ、見世物として披露していました。カルタ取りもその一つで、和歌の上の句を読むと、ヤマガラが下の句のカルタを取るという芸が流行っていたそうです。このヤマガラ、一枚一枚、真剣に選んでいる感じですね。
さて、この作品には、鳥人たち以外にも、鳥にまつわるさまざまな食べ物が散りばめられています。
「都鳥」は向島で販売していた和菓子のこと。「鷹の爪」は唐辛子。
「鵬」は酒でしょうか。現在調査中です。「鴬餅」は和菓子。
「みさご」は鶚鮨(みさごずし)のこと。鶚鮨とは、ミサゴが捕って岩陰に置いた魚に海水がかかって発酵し、酢に漬けたようになったものを指します。ここでは押鮨として描かれています。
最後に、この浮世絵のタイトルを見てみましょう。「諸鳥芸づくし」という題名が鳥籠の形にデザインされています。
以上、鳥人たちのお座敷芸、お楽しみいただけたでしょうか?この作品は太田記念美術館が監修したこちらの書籍にも掲載されています。ぜひご覧下さい。
また、浮世絵には他にもさまざまな鳥人たちが登場します。こちらの記事も合わせてご覧下さい。
文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)