「ゴジラ」が描かれた浮世絵の話
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「ゴジラ」が描かれた浮世絵の話

完全新作TVアニメシリーズとして放送中の「ゴジラ S.P <シンギュラポイント>」。その中に、古くから伝わる伝承を描いたという「古史羅ノ図」なるものが登場します。一瞬ですが、第2話の予告映像にも。

公式Twitterでも紹介されていますように、この「古史羅ノ図」が歌川国芳の錦絵「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」を元ネタにしていることは、浮世絵好きの人であれば、一目瞭然でしょう。

残念ながら、太田記念美術館ではこの作品を所蔵しておりませんので、画像は大英博物館のデータベースをご参照ください。

確かにゴジラのような巨大な化け物が印象的な歌川国芳の「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」。どのような場面を描いているのか、その状況をご説明しましょう。

この作品、源為朝(鎮西八郎為朝)という平安時代末期に実在した剛弓の使い手を主人公とした、『椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)』という小説(読本)を典拠としています。作者は『南総里見八犬伝』で知られる曲亭馬琴。挿絵を描いたのは葛飾北斎です。

『椿説弓張月』続編巻之一。平清盛を討伐するため、船に乗った為朝とその仲間たちですが、暴風雨に巻き込まれてしまいます。嵐を鎮めるため、海に身を投げたのが、為朝の妻である白縫姫。画面の右端で海に浮かんでいる女性です。

しかし、海は一向に静まりません。為朝は、もはやこれまでと思い、覚悟を決めて自決しようとしたところ、讃岐院(崇徳院)の眷属である天狗たちが救出にやってきます。画面の左側、船に乗っている男性が為朝。その周りを飛んでいる、白い姿をした人たちが天狗です。

ちなみに、こちらは典拠となった北斎の挿絵です(※画像は国立国会図書館蔵)。

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一方、為朝とは別の船に乗っていた、為朝の家臣である紀平次(喜平治)。為朝の嫡男である赤子の舜天丸を抱いたまま、海を漂流します。そこに襲いかかってきたのが、巨大なワニザメ(沙魚)。紀平次がもはやこれまでと思ったところ、すでに自害した為朝の家臣・高間太郎と妻の磯萩の魂が現れ、ワニザメの口の中に入ります。すると、ワニザメは高間夫婦の魂を宿し、紀平治と舜天丸を背中に乗せて島まで運ぶのです。

こちらが典拠となった北斎の挿絵(※画像は国立国会図書館蔵)。

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国芳は、この北斎の挿絵を参考にしつつ、横長の画面に横たわる巨大なワニザメを描きました。背中の真ん中あたりに、赤子を抱いた紀平治の姿が見えます。

という訳で、歌川国芳の「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」。ゴジラのような巨大なワニザメは、はじめは人間に襲いかかる「悪魚」として登場しますが、人間の魂が乗り移り、窮地を救ってくれるありがたい存在となるのです。

ちなみに、国芳のワニザメ、森島中良がオランダの文化を紹介した『紅毛雑話』巻之四にある「鰐之図」を参照しているとの指摘があります(鈴木重三『国芳』平凡社、1992年)。特にウロコの模様はそっくり。国芳のワニザメ、そのルーツの大元をたどれば、西洋に行きつくのです。(※画像は国立国会図書館蔵)

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さて、「ゴジラ S.P <シンギュラポイント>」の「古史羅ノ図」に話を戻します。ここでは船に乗っている男性が描かれていますが、国芳の錦絵とは異なり、「鎮西主税」という弓を構える人物に置き換えられています。実は、この人物も、別の錦絵が元ネタとなっています。

それは、歌川国芳の「通俗水滸伝豪傑百八之一個 小李広花栄」。こちらも、太田記念美術館で作品を所蔵していないので、大英博物館のデータベースをご覧ください。

中国の伝奇小説『水滸伝』に登場する、梁山泊の百八人の豪傑の一人、花栄です。百発百中の弓の名手として知られており、この絵では、空を飛んでいる雁を狙い通り射落とす場面を描いています。

国芳の「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」で描かれていた鎮西八郎為朝も弓の名手でしたが、この花栄も弓の名手。ゴジラS.P第3話では、弓が重要なキーとなりましたが、あえて花栄を元ネタとして選んだのは、明確な意図があったのかもしれません。


また、「ゴジラ S.P <シンギュラポイント>」第2話には、もう一つ、江戸時代の絵画が登場します。一瞬ですが、本編のちょっと見せ動画に映っています。

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こちらは「禍獣(わざわい)」という、体は牛、頭は虎である化け物です。人に降りかかる災いを、妖術によって実体化したもので、多くの人々を噛み殺しています。曲亭馬琴著・葛飾北斎画の読本『椿説弓張月 続編』巻之六に登場するのですが、その挿絵がそのまま使われています。(※画像は国立国会図書館蔵)


さて、最後におまけとしまして、「ゴジラ S.P <シンギュラポイント>」とは直接関係ないですが、まるでゴジラを描いたような浮世絵を紹介しましょう。数ある浮世絵の中でも、一番ゴジラに似ている作品ではないでしょうか。

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絵の中の文章によると、この化け物、淀川に出現しました。背筋は黒く、苔が生え、目は鏡のよう。形はイタチ、足はカメに似ています。長さは7尺5寸(約2.3メートル)、重さは20貫目(約75キログラム)ということで、人間よりも二回りくらい大きいですが、ゴジラと比べると可愛らしいものです。

ちなみに、ゴジラは「ゴジラの逆襲」(1955年)で大阪湾に出現。淀川をさかのぼったかは分かりませんが、淀屋橋から大阪城付近でアンギラスと戦い、周囲を破壊しています。

浮世絵のゴジラの方は、この魚が現れるのは大豊年になる吉兆だといわれており、「豊年魚」と名付けられていました。怖い顔をしていますが、ゴジラと違って、人間に危険を及ぼす生物ではないみたいですね。

※絵の文章の読み下しをお知りになりたい方は、下記のオンライン展覧会をご参照下さい。

文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)


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