突然の大雨や雷に戸惑う浮世絵を集めてみた
朝は晴れていたのに、午後になると天気が急変して突然の雷雨に…ということは、誰しも経験したことがあるかと思います。特に傘を持たずに外に出ていた時は困ったものです。
急な大雨を描いた浮世絵といえば、歌川広重の「東海道五拾三次之内 庄野 白雨」ですとか、
同じく歌川広重の「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」が有名です。
このように浮世絵には、大雨や雷、あるいは、急激な天気の変化に慌てる人々の姿がしばしば描かれています。今回は、そんな中から3点の浮世絵をご紹介しましょう。
まずは、歌川広重の「五十三次名所図会 四十七 亀山 風雨雷鳴」。
場所は、東海道の宿場町であり、城下町であった亀山。現在の三重県亀山市の風景です。坂の上には亀山城が見えます。
「風雨雷鳴」の題名通り、まさしく雷が鳴り響き、大雨が降る様子を描いています。雨雲に覆われた灰色の空が、赤い稲光によって黄色く光っているところに注目です。
右側の男性、雨具を持っていなかったのか、ありあわせの菰をかぶって雨をしのいでいます。
次は、同じく歌川広重の「木曽海道六拾九次之内 四拾 須原」。
場所は、中山道(木曽街道)の宿場町、須原。現在の長野県木曽郡大桑村須原です。急な夕立が降ってきたようで、駕籠かきたちは走って辻堂に避難しようとしています。
辻堂の屋根の下は、すでに雨宿りをしている虚無僧や巡礼者たちの姿が。柱に何かを書き記している人もいます。皆、雨を逃れて一安心といったところでしょう。
細い雨脚を表現した彫師の技術、雨雲や旅人たちのシルエットをグレーの色で摺り分けた摺師の技術にも注目です。
最後は、歌川国貞の「水無月 冨士帰夕立」。こちらは江戸の町の風景。
突然の夕立。干していた洗濯物を慌てて取り込もうとしたり、盥の水を捨てて片付けようとしたりしています。洗濯の途中だった女性は、盥を抱えて家へと戻ります。
左側にいるのは、富士塚のお参りから帰る人々。旧暦6月1日の富士山の山開きに合わせ、江戸市中にあった富士塚にも大勢の参拝客が訪れました。
注目すべきは雨と雷の表現。激しい雨が地面にあたり、跳ね返っている様子がしっかりと観察されています。
さらに、女性の足元には、橙色のジグザグの線で表現された雷が。かなり危険です。
皆さんも、急な大雨や雷にはご注意下さい。
さて、太田記念美術館では、浮世絵に描かれた天候にスポットを当てた「江戸の天気」展を、2021年6月26日(土)~8月29日(日)に開催しました。現在はオンライン展覧会としてご覧いただけますので、江戸の天気にご興味のある方はご利用ください。ただし、今回ご紹介した作品は、展覧会に出品しないものも含んでおりますので、ご注意ください。
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文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)