見出し画像

御茶ノ水は人工の渓谷だった 「江戸の土木」展④

今回は江戸時代に、人の手で造られた渓谷の話。御茶ノ水駅から秋葉原駅まで、神田川沿いを下ると、都心とは思えない谷状の地形が続いています。実は飯田橋付近から秋葉原付近までの神田川は、仙台濠とも呼ばれ、仙台伊達藩による大規模な土木工事で生み出された、人工の渓谷なのです。

神田山を分断する大土木工事

このあたりにはもともと神田山という台地がありました。現在の本郷台地ですね。その神田山から隅田川へ向かって、神田川の原型となる流れが注いでいたのですが、そこに平川、小石川、石神井川3つの河川をまとめて接続し、隅田川へ放水するという、大規模な河川の架替えが計画されました。

その際に行われたのが、神田山を真っ二つに分断して掘削するという大工事。元和6年(1620)、秀忠の命を受け、伊達政宗が工事を担当して仙台濠の原型が作られ、万治3年(1660)には仙台藩四代藩主である伊達綱村が拡幅工事を担当しています。

画像2

現代の地形図を見ると、この工事のすごさがよく分かります。黄色くなっているのが、もともと神田山があった台地。その台地をまさに分断して神田川が流れているのです。

(出典)国土地理院デジタル標高地形図「東京中心部」より。※筆者が御茶ノ水付近をトリミングしています。

https://www.gsi.go.jp/kankyochiri/degitalelevationmap_kanto.html

聖橋上から秋葉原方面を眺めると、かなりの高低差に富んだ谷状の地形となっていますよね。工作機械のない時代、この高低差を掘り下げるには、想像を絶する苦労があったに違いありません。

googleストリートビューで神田川の御茶ノ水付近から水道橋方面を見た画像がこちら。

浮世絵に描かれた御茶ノ水

029 5308昇亭北寿

浮世絵で当時の御茶ノ水を眺めてみましょう。昇亭北寿「東都 御茶ノ水風景」。先程のストリートビューより少し下流側から、水道橋方面を描いています。右手に見えるのは昌平坂で、多くの人々が行き交っています。荒々しく描かれた崖の描写が印象に残ります。

画像4

広重も御茶ノ水の渓谷を描いてます。「名所江戸百景 昌平橋聖堂神田川」(※「江戸の土木」展には出品されません)。北寿の作品よりも崖の描写が穏やかな感じですね。もしかすると、この絵の方が実景に近いのかも知れません。右手の崖の上に白壁がつづいていますが、こちらは湯島聖堂。

画像5

こちらは国芳が描いた御茶ノ水で、「東都富士見三十六景 昌平坂の遠景」(※東京都美術館で開催の「The UKIYO-E2020」にて、2020/9/22まで展示中。「江戸の土木」展には出品されません)。絵師が違うと、まただいぶ雰囲気が違います。

029 5308昇亭北寿3

さて、先程の北寿の作品で、崖と崖の間に、建物のようなものが描かれていました。これは、神田上水で運ばれてきた飲料水を、江戸市中へと運ぶ掛樋(水道管)。本郷方面から神田方面に水を通すためには、御茶ノ水の崖を経由する必要があり、このような掛樋が作られました。

奥に小さく橋が見えていますが、こちらが水道橋で、その名前は近くに掛樋があったことに由来すると言われています。

文:渡邉 晃(太田記念美術館上席学芸員)


原宿の太田記念美術館では、10/10より「江戸の土木」展を開催予定。「土木」というキーワードで、江戸の成り立ちの様子を、浮世絵を通して眺めてみようという展覧会です。

http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/exhibition/doboku

同展覧会の見どころを、テーマごとに紹介しています。過去の記事はこちらからどうぞ。

10/16のニコニコ美術館にて、江戸の土木展が生中継されました。後半にはアダチ版画研究所協力により、後半には浮世絵の摺の実演もあります。ぜひご視聴ください。

https://live2.nicovideo.jp/watch/lv327866473



スキありがとうございます!キツネたちも喜んでいます!
241
原宿にある浮世絵を専門とした美術館です。浮世絵ならびに展覧会に関する情報をお伝えします。画像は表記がないものは太田記念美術館所蔵です。HPは http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/、twitterはhttps://twitter.com/ukiyoeota

こちらでもピックアップされています

note編集部お気に入りマガジン
note編集部お気に入りマガジン
  • 18895本

様々なジャンルでnote編集部がおすすめしている記事をまとめていきます。

コメント (2)
地形図があったので、この土木工事の大変さが分かりやすかったです。Google ストリートビューの画像と実際に舟から見えるであろう風景との角度が近く感じられ、想像しやすかったです。この土木工事期間中、御茶ノ水界隈では公共事業バブルが起こり、経済は潤ったのだろうか?河川の架替えが終わり、開通記念式典なんぞが開かれたのだろうか?国芳「東都富士見三十六景 昌平坂の遠景」で、道の端まで行かず恐る恐る崖下を見ようとしている男性が印象的。「伊達藩、スゲー」と江戸での評判は上がったのだろうか?色々と妄想が膨らむ記事でした。
生で見たいです。東京いくことないからなぁ…
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。