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「あつまれ どうぶつの森」で太田記念美術館の浮世絵を飾ってみよう

 Nintendo Switchの人気ゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」。世界中の美術館や博物館が、部屋の中で飾ることができるよう、自分たちのコレクションの画像データを公開しています。原宿の太田記念美術館でも、三菱一号館美術館さんに便乗し、「#あつ森で飾ろう」と題して、北斎や広重、動物や妖怪などの画像データをtwitterで紹介してきました。数もたまってきましたので、今回、見やすいようにnoteの記事としてまとめました。作品の見どころも追加しましたので、合わせてお楽しみください。

1.動物キャラクター

太田記念美術館のコレクションの中から、人気の動物キャラクターたち、3点をご紹介。

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歌川芳員「東海道五十三次之内 大磯」 虎子石

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大きな石に虎の手足と尻尾が生えている謎の生き物、「虎子石」。『曽我物語』に登場する女性、大磯の虎にゆかりのある「虎御石」という石に由来しています。「虎御石」はごく普通の石で、もちらん手足は生えていません。ちなみに、今でも大磯の延台寺に祀られています。芳員は「虎御石」から動物の虎を連想し、石に虎の手足をつけて、ユーモラスなキャラクターに仕上げました。

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歌川芳虎「家内安全ヲ守十二支の図」 十二支合体

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家の安全を守るため、何と十二支の動物たちが合体!この頼もしい姿を見て下さい!これでおうちの安全は・・・大丈夫でしょうか?顔が鼠、角が牛、背中の縞模様が虎、耳が兎、火炎が龍、尻尾が蛇、たてがみが馬、ひげが羊、後足が猿、とさかが鳥、前足が犬、背中の毛並みが猪に相当します。賛は「うきたつや虎にをき稲とり込みてもううまいぬるひつじさるころ」と読み、十二支が織り込まれています。

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歌川広重「名所江戸百景 浅草田甫酉の町詣」 猫

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白い猫が窓辺にたたずんで、じっと外を眺めています。猫のいる部屋は、吉原遊廓の2階にある座敷。この猫、花魁のペットと思われます。視線の先にあるのは、鷲神社での酉の市のお祭りのにぎわい。外の世界に憧れる花魁の気持ちを代弁しているのかも知れません。もちろん猫ですから、人間のことなんかお構いなく、単にぼんやり外を眺めているだけということもありえます。

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2.葛飾北斎「冨嶽三十六景」

葛飾北斎が70歳を過ぎた頃に描いた傑作「冨嶽三十六景」。日本のさまざまな場所から富士山を眺めています。「三十六景」という題名にも関わらず、総点数は実は46点。世界的にも有名な「グレートウェーブ」や「赤富士」を含む、4点をご紹介します。

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葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」

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おそらく世界で一番有名な浮世絵であろう、「グレートウェーブ」こと、「神奈川沖浪裏」。山のように高くせり上がった巨大な波が、今まさに崩れ落ちようとする一歩手前の瞬間を描いています。押送船に乗る者たちに為す術はなく、ただ船にしがみついて大自然の凶暴さに身をまかせるだけ。波の向こうに、雪をかぶった富士山の姿があることをお見逃しなく。

葛飾北斎 冨嶽三十六景  神奈川沖2 1x1

葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」

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青く晴れた空を背景に、堂々とそびえ立つ夏の富士山。「赤富士」の通称で知られています。「凱風」とは、初夏の季節に南の方角から吹くおだやかなそよ風のこと。気温が高い夏場は靄がかかりやすいですが、凱風が靄を吹き飛ばしてくれたようです。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 凱風快晴 1x1

葛飾北斎「冨嶽三十六景 深川万年橋下」

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万年橋は、小名木川が隅田川に合流する手前に架かる橋。その橋の下から遠くの富士山を眺めるという奇抜な構図です。画面いっぱいに弧を描くようにして配置された万年橋。まるでコンパスを使って作画したかのようです。幾何学的な構図を好んでいた北斎の個性が際立ちます。

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葛飾北斎「冨嶽三十六景 尾州不二見原」

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現在の愛知県名古屋市にあった富士見原から眺めた富士山。実際にはこの場所から富士山を見ることは不可能だったようです。通称「桶屋の富士」で親しまれているこの作品。上半身裸の桶職人が一心不乱にその内側を削っていますが、その丸い桶の中に、小さな三角形の富士山が隠れていることがお分かりでしょうか?

葛飾北斎 冨嶽三十六景 尾州不二 1x1

3.歌川広重「名所江戸百景」

歌川広重が、安政3~5年(1856~58)、最晩年の頃に描いた傑作「名所江戸百景」。江戸の町のさまざまな景色を斬新な構図で描いています。全部で119点(1点は二代広重)ありますが、その中から特に有名な4点をご紹介します。

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歌川広重「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」

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突然降り出した夕立。隅田川に架かる新大橋を渡っていた人々は、雨を逃れようと足場に駆け抜けています。画面全体を覆い尽くす雨の斜線は、角度と濃さが異なる2種類の線が重ねて摺られており、それによって雨の激しさが表現されています。ポスト印象派の画家・ゴッホがそっくり模写したことでも有名です。

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歌川広重「名所江戸百景 亀戸梅屋舗」

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梅の名所として一番の人気を誇っていた亀戸の梅屋敷。その名木として有名な臥龍梅という梅の木を、画面からはみ出すほど極端に拡大して描いています。まるで梅の木を間近で眺めているかのような臨場感。こちらもゴッホが模写したことで知られています。

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歌川広重「名所江戸百景 深川万年橋」

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亀が紐で吊るされたなんとも奇妙な場面。実はこの亀、放し亀として、手桶の横手にぶら下げられています。もともと捕獲した生物を野に放すことで殺生を戒める放生会という宗教儀式でしたが、そこから派生して、橋のたもとや池の端で、亀や魚、鳥を販売し、客たちに逃がさせるという商売になりました。この亀も川に放たれることを望んでいるのでしょうが、悪い亀売りに再び捕まって、繰り返し売られてしまうかもしれません。

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歌川広重「名所江戸百景 深川洲崎十万坪」

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一匹の鷲が大きく翼を広げ、はるか上空を飛んでいます。眼下に広がるのは、一面の雪景色。遠くには筑波山が見えます。まるで広重自身が鷲となり、実際に見下ろしているかのよう。広重はドローンカメラの眼を持っていたのでしょうか。

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4.妖怪キャラクター

浮世絵に登場する人気の妖怪キャラクターをご紹介。海坊主、土蜘蛛、髪切、河童、九尾の狐の5点です。

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歌川国芳「東海道五十三次 桑名」 海坊主

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桑名屋徳蔵という船乗りが、沖で巨大な海坊主に遭遇しました。海坊主は、真っ黒なシルエットに、目だけがぼんやりと浮かんだ不気味な姿をしています。しかし、徳蔵はこの海坊主をまったく怖がらなかったため、逆に海坊主は恐れをなしてすごすごと退散していきました。

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月岡芳年「新形三十六怪撰 源頼光土蜘蛛ヲ切ル図」 土蜘蛛

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土蜘蛛の妖怪の呪いによって、病に伏せっていた源頼光。その枕元に土蜘蛛が現われ、頼光に薄い膜状の巣網をかけようと襲いかかります(お布団をかけてあげようとしているのではありません)。しかし、それに気が付いた頼光。枕元にあった源家に伝わる名刀・膝丸を握りしめ、土蜘蛛を返り討ちにします。それにより、この太刀の名前は蜘蛛切と改められることになりました。

芳年土蜘蛛

歌川芳藤「髪切の奇談」 髪切

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女中が夜中にお手洗いに行こうとしたところ、突如真っ黒な化け物が現われ、女中の髻(もとどり)にかじりつきました。女中は気を失ってしまいましたが、しばらくして目を覚ますと、近くに噛み切られた髻が落ちていました。その姿は猫のようだったと絵の中に書いてますが、猫のようには見えませんね。

芳藤髪切

葛飾北斎『北斎漫画』三編 河童

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葛飾北斎が『北斎漫画』の中で描いた河童です。不思議な動物を生き生きと描くのはさすが北斎。実際にこの生き物に会ったのかもしれません。膝を抱えて体育座りをする姿にちょっと哀愁が漂います。頭にお皿がないからなのかもしれません。

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歌川国芳「三国妖狐図会 蘇姐己駅堂に被魅」 九尾の狐

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白面金毛九尾の狐は、中国では殷の姐己、天竺では華陽夫人、日本では玉藻前といったように、絶世の美女に化けて権力者に近づき、国を混乱に陥れようとしました。この絵は九尾の狐が寿羊女(後の姐己)と入れ替わろうとその精血を吸おうとする場面。侍女が短刀を抜いて襲いかかりますが、逆に蹴り殺されてしまいます。

国芳九尾の狐

5.月岡芳年

月岡芳年の作品から代表的な武者絵を中心にセレクト。「英名二十八衆句」「月百姿」「新形三十六怪撰」など、4点の作品をご紹介します。

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月岡芳年「英名二十八衆句 因果小僧六之助」

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月岡芳年の血みどろ絵の代表作である「英名二十八衆句」。盗賊・雲霧仁左衛門の仲間である因果小僧六之助が、三囲神社の石段で人を殺めた直後の姿を描いています。六之助は、夜空の月を眺めながら、不敵な表情を浮かべて刀についた血を拭っています。

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月岡芳年「義経紀五條橋之図」

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五条橋で戦う牛若丸(右)と弁慶(左)。跳躍した牛若丸が弁慶に向かって扇を投げますが、弁慶は薙刀でそれを見事に防いだ瞬間です。背景となる巨大な満月や遠近感を誇張した橋が、2人の戦いをよりドラマティックに演出します。

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芳年「義経記五條橋之図」左.jp 1x1

月岡芳年「月百姿 朱雀門の月」

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笛の名手である源博雅(博雅三位)。月夜の晩に朱雀門で笛を吹いていると、同じように笛を吹いている見知らぬ人物に出会います。言葉は交わしませんでしたが、その後も月夜のたびに顔を合わせることに。その演奏があまりに素晴らしいので、博雅は互いの笛を交換しました。博雅の死後、その相手が朱雀門の鬼であったことが分かり、笛は「葉二」と名付けられました。月の輝く静かな夜、二人の笛の音だけが美しく響き渡ります。背中を向けている方が博雅です。

芳年「月百姿 朱雀門の月」

月岡芳年「新形三十六怪撰 さぎむすめ」

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歌舞伎の舞踊である「鷺娘」。白鷺の精が人間の娘の姿となって踊るというもので、白無垢に綿帽子、黒い帯という姿です。白無垢には綺麗な空摺り(エンボス加工)が施されているのですが、残念ながらこの写真でははっきり見えません。

芳年「新形三十六怪撰 さぎむすめ 1x1

文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)

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