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2021年の干支・丑にちなんで、牛の浮世絵を紹介します。

もうすぐ2021年。干支は丑です。そこで、浮世絵に描かれた牛たちをご紹介しましょう。

まずは二代歌川広重の「東都三十六景 高輪海岸」です。場所は、現在の東京都港区高輪。JR山手線の高輪ゲートウェイ駅近くです。まだ埋め立てが行われていなかったため、目の前には江戸湾が広がっていました。外国船や台場も見えます。

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高輪にはたくさんの牛がおり、高輪牛町と通称される場所もありました。19世紀前半に刊行された『江戸名所図会』には、なんと1000頭以上の牛がいたと記されています。この浮世絵の牛が「くびき」をかけられていることからも推測されるように、荷車を運搬するための労働力としてでした。

この牛、今は仕事中なのでしょう。こちらをじっと見つめているかのような目つきが印象的です。

ちなみに、有名な歌川広重の「江戸名所図会 高輪うしまち」は、まさしく同じ場所を描いています。画面の手前に荷車が大きく描かれていますが、これが牛が運んでいる荷車です。牛が運ぶ荷車が有名だからこそ、広重はこの荷車を描いたんですね。

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同じように高輪にいる牛を描いた浮世絵をご紹介しましょう。河鍋暁斎の「東海道 高輪牛ご屋」です。高輪大木戸のそばを大名行列が通りかかり、町の人々が平伏しています。

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画面の下の方に、牛小屋の様子が描かれています。つながれている牛たち。隣で男は洗濯をしています。

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子どもたちは大名行列が気になっているようですが、おそらく親に外に出ることを禁じられているのでしょう。それでも何とか大名行列を見ようと、牛の背中で肩車をしています。

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ちなみに犬は土下座をしていません。

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次は、江戸の町を離れてみましょう。場所は、江の島の近く、神奈川県鎌倉市の七里ヶ浜の海岸。歌川国芳が描いた「山海名産尽 相模ノ堅魚」です。海の中に見える藍色の塊が江の島です。海岸ではカツオ漁が行われています。

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女性が黒い牛に乗っています。後ろに荷物を持っている男性の姿も見えますので、旅をしている最中なのでしょう。目的は江の島。江の島は庶民たちが気軽に参詣できる観光地として、大変に人気がありました。

七里ヶ浜を描いた浮世絵では、牛に乗っている女性の姿がしばしば描かれます。女性たちにとって、ゆっくりと歩く牛は乗りやすかったのでしょう。

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動物を可愛らしく描くことに定評のある国芳ですが、若描きであるせいか、真正面から捉えた顔はあまり可愛くないですね(笑)

次は葛飾北斎の描いた牛を見てみましょう。代表作である「冨嶽三十六景」の中に牛が登場します。「駿州大野新田」です。場所は現在の静岡県富士市。富士山を背景に、農夫たちが牛を曳いています。農作業が終わり、家路につくところでしょうか。

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描かれているのは、5頭の牛たち。芝の束を背中いっぱいに背負っています。

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ここでも牛たちは働き者ですね。

国芳、北斎ときましたので、最後は歌川広重の牛もご紹介しましょう。「木曽海道六拾九次之内 恵智川」です。現在の滋賀県愛知郡愛荘町にあった愛知川宿から西に向かってすぐそばにある愛知川(えちがわ)の光景です。

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橋のそばに「むちんはし(無賃橋) はし銭いらす」と書かれた杭が立っています。

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この川には橋を架けることが許されていなかったため、川が増水した場合、村人たちはお金を払って舟や人夫を雇うか、裾をまくって川を渡らなければなりませんでした。そんな村人たちの負担をなくそうと、成宮弥次右衛門ら数名が、彦根藩に願い入れて、橋を建設。慈善事業として行ったため、普通なら通行料を取るところを、なんと無料にしました。だから、わざわざ看板が立てられているのです。橋が完成したのは、広重の浮世絵が描かれた数年前のことです。

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川のそばには、女性に曳かれている黒い牛の姿が。軽い荷物を運んでいます。この橋のおかげで、村人たちの暮らしは楽になりました。牛もちょっとにっこりしているような表情ですね。

干支を題材としたこちらの記事も、あわせてどうぞ。

文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)

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