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浮世絵のキツネたちをご紹介します

先日のTwitterにて、明治の浮世絵師・月岡芳年が「月百姿」というシリーズの中で描いた、キツネの作品を2点、紹介しました。

大変に好評だったため、キツネ好きの方は世の中にかなり多いのでは!?、と思い、早速、他のキツネの浮世絵も紹介してみることにしました。

こちらは歌川広景の「江戸名所道戯尽 十六 王子狐火」。

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二足歩行をするキツネたちが列をなしていますが、よく見ると、そこに人間が一人だけ、まぎれています。大きなザルの中にどっかりと座り、腕組みをして、ご満悦の様子です。キツネたちは大名行列ごっこがしたかったのでしょう。男性を化かしてお殿様に仕立てたようです。

男性はお殿様気分なのでしょうか。この楽しそうな表情(ちょっと虚ろな表情にも見えますが…)。

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キツネたちも笑顔です。化かす方も化かされる方も、ウィンウィンですね。

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(ちなみにキツネたちは、大名行列で用いられる挟み箱はカボチャで、毛槍はトウモロコシで代用しています。)

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さて、この絵の舞台は王子、現在の東京都北区です。ここには関八州の稲荷神社の総元締めとされる、王子稲荷社があります。毎年、大晦日の夜になると、各地のキツネたちが、王子稲荷社の近くにある大榎の前に集まったと伝えられています。

王子のキツネを描いた、最も有名な浮世絵が、歌川広景の師匠である歌川広重の「名所江戸百景 王子装束ゑの木大晦日の狐火」です。

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真っ暗な闇の中に、ぼんやりと姿が浮かび上がるキツネたち。幻想的な光景です。キツネたちの頭のそばには、狐火が光っています。近隣の農家たちは、この狐火の数で、翌年の農作物の豊凶を占ったそうです。

画面の右奥を眺めると、さらに無数の狐火が。続々と榎に集まっているようです。キツネたちは身なりを整え、王子稲荷神社へお参りに向かうのでしょう。

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さらに王子を舞台としたキツネの浮世絵として、同じく歌川広重が描いた「東都飛鳥山の図 王子道狐のよめ入」があります。

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場所は王子にある飛鳥山。桜の名所として現在でも有名ですね。桜が満開の中、高貴な身分の人たちの嫁入り行列…、かと思いきや、その顔をよく見ると、みんなキツネ。

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空は晴れているのに雨が降る天気雨のことを「狐の嫁入り」といいますが、まさしくこの浮世絵は、キツネたちが嫁入りをする行列の様子が描かれています。空をよく見ると、天気雨が降っています。

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さて、これまで可愛らしいキツネたちを紹介してきましたが、中には悪い妖怪のキツネもいます。妖怪のキツネと言えば、皆さんご存知の、白面金毛九尾のキツネ。

こちらは歌川国芳の「三国妖狐図会 蘇姐己駅堂に被魅」です。

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11886 歌川国芳のコピー

白面金毛九尾のキツネは、中国では殷の姐己、天竺では華陽夫人、日本では玉藻前といったように、絶世の美女に化けて権力者に近づき、さまざまな国を混乱に陥れようとしました。
この絵は九尾のキツネが寿羊女(後の姐己)と入れ替わろうとその精血を吸おうとする場面です。侍女が短刀を抜いて襲いかかりますが、逆に蹴り殺されてしまいます。

怖い顔をしていますね…。

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中国では殷の姐己に化けた九尾のキツネ。天竺では華陽夫人、日本では玉藻前に化けますが、月岡芳年が、美しい女性に化けた姿を描いています。

こちらは、月岡芳年の「和漢百物語 華陽夫人」です。

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天竺で華陽夫人という美女に化けた九尾のキツネは、斑足王の寵愛を受け、暴虐の限りを尽くしました。王をたぶらかし、なんと千人もの首を刎ねさせたといいます。生首を冷ややかな眼差しで眺める華陽夫人。憎らしい表情です。

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こちらは月岡芳年「新形三十六怪撰 奈須野原殺生石之図」。

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日本では玉藻前(たまものまえ)という美女に化けた九尾のキツネ。鳥羽上皇の寵愛を受けますが、その正体が見破られ、栃木県の那須野にて弓矢で射られます。するとその怨念が殺生石という毒を発する石となり、近づいてくる鳥獣たちの命を奪うようになりました。毒に侵されて落ちてくる雁たちを、微笑んだ表情で眺めています。

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さて、最後に紹介するのは、キツネのせつない物語、葛の葉(くずのは)の伝説です。

安倍保名によって命を救われた信太の森の白狐。葛の葉という美女に化けて、保名と結婚し、童子丸という息子を授かります。しかし、その正体がバレてしまった葛の葉。愛する夫と息子と別れ、信田の森へと帰る決心をします。

こちらは、歌川国芳「木曽街道六十九次之内 妻籠 安倍保名 葛葉狐」です。

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化けていた女性の姿から、キツネの姿に戻ろうとしているところ。体が透き通っています。涙がとまらない葛の葉。目頭を押さえています。

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幼い童子丸は必死に母親の着物の裾にすがります。母子のせつない別れの場面です。ちなみに、この童子丸が後に陰陽師として有名な安倍晴明となります。

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浮世絵に登場するキツネたち、いかがだったでしょうか?キツネ好きの皆さんに届けばいいのですが。

文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)

参考文献


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