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江戸の発展は〈埋め立て〉抜きには語れない

太田記念美術館では2020年10月10日~11月8日に「江戸の土木」展を開催。「土木」というキーワードで、江戸の成り立ちの様子を、浮世絵を通して眺めてみようという展覧会でしたが、その見どころをご紹介します。

家康の江戸入府と埋め立て

今回のテーマは「埋め立て」。江戸の発展は、常に埋め立てとともにあったと言っても言い過ぎではありません。まず天正18年(1590)の家康江戸入府から間もない時期に行われたのが、日比谷入江の埋め立てです。

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(参考文献:鈴木理生『江戸はこうして造られた』筑摩書房、2000。図版データ作成:筆者)

図のように、家康江戸入府直後の江戸は、「江戸前島」とも呼ばれる半島状の地形でした。ちょうど今の京橋、銀座一帯がその半島部分にあたります。現在の日比谷あたりは、日比谷入江と呼ばれ、内陸まで海が広がっていました。

当時は平川が日比谷入江に注いでいたので、その流れを図のように架けかえてから、日比谷入江が埋め立てられたと考えられています。以降、さまざまな地域で海が埋め立てられ、新しい土地が造成されていきました。いくつか例を見てみましょう。

築地

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築地は代表的な埋立地のひとつ。そもそも地名の由来も、「地を築く」というところから来ています。図は築地本願寺を、東の海上から眺めたもの。もともと本願寺は浅草にありましたが、明暦の大火で消失。元の土地には再建がゆるされず、八丁堀沖を埋め立てて土地を造成、延宝7年(1679)に再建されました。埋め立て工事は困難を極めたと言われています。

佃島

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こちらは、佃島を描いた広重「東都名所 佃嶋初郭公」。佃島も江戸初期に埋め立てでできた埋立地でした。

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本能寺の変の際に、家康を助けた摂津国佃村の漁師の森孫右衛門たちが、徳川幕府の開府後に江戸へと呼ばれます。家康は漁師たちに石川島の南の干潟と、付近での漁業権を与えます。漁師たちは自ら土地を埋め立て、10年以上の歳月をかけ、寛永21年(1644)に佃島が完成したと言われています。切絵図と照合すると、手前側が御用地の石川島、右奥の集落が佃島でしょうか。

深川

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(参考文献:鈴木理生『江戸はこうして造られた』筑摩書房、2000。図版データ作成:筆者)

家康が江戸に入った直後、現在の江東区、江戸川区の南側は小島などが浮かぶ湿地帯だったと言われています。まず小名木川、新川という二つの運河が造成され、その南側に向かって埋め立てが進んでいくことになります。

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代表的な例として、深川八郎右衛門が中心となり、慶長(1596~1615)頃に埋め立てが進んだ深川村があります。上の図は広重「名所江戸百景 深川洲崎十万坪」。洲崎十万坪は深川の東のはずれに位置した埋立地で、享保8年(1723)から湿地を3年かけて埋め立てられました。図からは、広大な埋立地の雰囲気がよく伝わってきます。

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ちなみに矢印のあたりには、木材が立ち並んだような描写が見えています。

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これは、十万坪のすぐ南西にあった深川木場ではないかと思われます。深川木場は木材の集積場で、元禄14年(1701)、日本橋付近にあった材木河岸を深川に移転して作られました。埋立地の広大な土地を利用し、図のように水路が張り巡らされ、火事になった際に燃え広がらないように工夫されていたようです。

埋め立ては400年経った今も進行中

天正18年(1590)、家康の江戸入府のすぐ後からはじまった埋め立て。特に江戸前期には、大規模な埋め立てによって、深川のような新興地もでき、江戸の町は大きく発展していきました。

そして、家康の江戸入府から400年以上たった現在でも、東京湾の埋め立ては続けられています。近年では、埋め立てによって造成された晴海や豊洲が新興地として注目されるなど、その流れは今に続いているのです。

文:渡邉 晃(太田記念美術館上席学芸員)

※美術館での「江戸の土木」展の展示は終了しましたが、現在でもオンライン展覧会アーカイブズとして、同じ作品、解説を有料(800円)でお楽しみいただけます。リンク先からご入場ください。

また同展覧会の見どころを、テーマごとに紹介しています。その他の記事はこちらから。

2020年10月16日のニコニコ美術館にて、江戸の土木展が生中継されました。後半にはアダチ版画研究所協力により、後半には浮世絵の摺の実演もあります。ぜひご視聴ください。


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