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浮世に描かれた橋 ~土木の視点から

太田記念美術館では2020年10月10日~11月8日に「江戸の土木」展を開催しました。近年、土木工事によって造られた地形や構造物に、マニアックな楽しみを見出す人たちが増えています。また東京では、(延期になってしまいましたが)オリンピックを見据えてさまざまな再開発や工事も盛んに行われています。

考えてみると、東京のルーツである100万都市・江戸は、江戸城の普請や、埋め立てにより土地を造成、橋や上水、運河などのインフラの整備など、高度な土木技術より発展していった都市でした。現代にもつながる「土木」というキーワードで、江戸の成り立ちの様子を、浮世絵から眺めてみたら面白いのでは、と企画したのがこの展覧会。本展のみどころを、何回かに分けて紹介していきましょう。

広重も北斎も描いた「橋」

第1回は「橋」。歌川広重も、葛飾北斎も、たくさんの橋の絵を残しています。江戸時代には、隅田川や日本橋川をはじめとした、大小さまざまな河川や水路に、高度な土木技術を駆使して、橋が架けられました。

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上は広重が描いた両国橋。広重は、橋をモチーフにした魅力的な作品を数多く残しています。図は空から眺めたような俯瞰の視点で、両国橋とその周囲の様子を詳細に描いています。

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拡大した図がこちら。両国橋は寛文2年(1661)隅田川で二番目に架けられた橋(架橋年代には他説あり)。橋の長さは約171メートルでした。ちなみに橋桁と橋桁の間のことを「側(かわ)」と呼びますが、浮世絵では側や橋桁の数を、実際より省略して描くことが多いようです。

005 4452 歌川広重

ゴッホが模写したことで知られる名品「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」も、両国橋の少し下流に位置する新大橋がテーマです。人々が行き交う場所である橋を、突然の雨というシチュエーションと結びつけて、印象的な作品に仕上げています。

新大橋は元禄6年(1694)、隅田川で三番目に架けられた橋。橋の長さは約197メートルでした。52日の突貫工事で建設されたと伝えられています。

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こちらは北斎が描いたシリーズ物「諸国名橋奇覧」のうち「かめゐど天神たいこばし」。橋をテーマとしたシリーズ物を出すあたり、北斎は橋の造形に興味があったのかも知れません。亀戸天神の太鼓橋は、図のように急な勾配で有名な橋でした。北斎はその美しいアーチを細部まで写し取っています。

027 4847-2葛飾北斎

なお北斎は名作「冨嶽三十六景」中でも、「御厩川岸より両国橋夕陽見」「深川万年橋下」「江戸日本橋」という橋を題材にした三点の作品を残しています。

橋のうつりかわりを浮世絵で知る

009 4497 歌川広重

橋の長い歴史と、その移り変わりの様子が、浮世絵からうかがえる場合もあります。ここで紹介するのは、千住大橋を描いた2枚の絵。

上は歌川広重「名所江戸百景 千住の大はし」。千住大橋は、家康の江戸入府の4年後にあたる、文禄3年(1594)に架橋された隅田川で最初の橋でした。土木の名手として知られた伊奈忠次が架橋を担当しましたが、その工事は苦難の連続であったそうです。

また千住大橋は、江戸から明治に至るまで300年近く、流失がなかった名橋でもありました。しかし、明治18年(1885)、その名橋もついに最期を迎える時がきます。

千住大橋

図は二代歌川国明「千住大橋吾妻橋 洪水落橋之図」(個人蔵)。明治18年(1885)に起きた台風による洪水で水嵩が増し、上流から流れてきた大筏(おおいかだ)が千住大橋に激突して中央が崩落、そのまま下流の吾妻橋に衝突し、吾妻橋も落橋。さらに、両橋の残骸が図の左端に描かれた厩橋に迫っています。

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こちらが拡大図。右手の小さな破片に「千住大ハシ」とあります。広重「名所江戸百景 千住の大はし」で描かれていた名橋の面影はありません。左の残骸は「吾妻ハシ」。

千住大橋-3

水防組や消防組が大綱を掛けて懸命に岸から引き、厩橋は危機一髪で流失を免れました。

今も昔も人々をひきつける「橋」

江戸の浮世絵師や、浮世絵ファンたちに親しまれ、数多くの作品が描かれた橋。実は現代の土木ファンの間でも、橋は人気ジャンルのひとつです。

辞書で「土木」という言葉をひもとくと、「道路、鉄道、河川、橋梁、港湾などを作る建設工事のこと」などと出てきます。この中で、純粋なインフラとしての側面が強い道路や鉄道、河川、港湾などと違い、橋はその形状自体に強いデザイン性や美しさを備えた構造物と言えます。

交通インフラとして生活に欠かせない存在であるだけでなく、その外観の美しさも相まって、地域のランドマークとしての役割を果たす橋。そうした多面的な魅力に、今も昔も人々はひきつけられるのかもしれません。

文:渡邉 晃(太田記念美術館上席学芸員)

※美術館での「江戸の土木」展の展示は終了しましたが、現在でもオンライン展覧会アーカイブズとして、同じ作品、解説を有料(800円)でお楽しみいただけます。リンク先からご入場ください。

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