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月岡芳年の猫がカワイイという話

猫の絵をたくさん描いている浮世絵師といえば、歌川国芳が有名でしょう。猫が大好きで、たくさんの猫を飼っているだけでなく、仕事をしている最中でも懐に猫を入れていたといいます。

こちらは幼い頃に国芳に入門していた河鍋暁斎が、当時のことを思い出して描いた『暁斎画談』の1図です。右側にいる絵筆を持った人物が国芳。机の周りに猫が何匹もいるだけでなく、懐の中や机の上にもいた様子がよく分かります。

1013-3-6暁斎画談 暁斎

さて、猫好きの歌川国芳の門人であったのが月岡芳年です。芳年と言えば、残酷な血みどろ絵の印象が強いかも知れませんが、実は、師匠の影響を受けてか、可愛らしい猫の浮世絵をいくつも描いているのです。

まずは『美術世界』という雑誌に描いた1図。女性が猫を抱いています。女性の優し気な眼差しから、猫への愛情の深さが感じられます。

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ご注目いただきたいのは猫の顔。嬉しそうに目を細めています。ちょっとブサカワな表情がたまりません。

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お次に紹介するのは「風俗三十二相 うるささう 寛政年間処女之風俗」。少女が猫に覆いかぶさるようにして喉元を撫でています。「風俗三十二相」は、「痛そう」「暑そう」といったように「○○そう」と題して女性たちの感情を捉えようとしたシリーズ。「うるさそう」というのは、この猫好きな少女が、まだ落ち着きのない騒がしい性格であることを描こうとしているのでしょう。

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一方、猫の方を見てみますと、ご覧の表情。大人しく少女に抱かれていますが、喜んでいるというよりも、「やれやれ、また騒がしいのが来たね」といった感じです。ただ、嫌がっているのではなく、この少女を暖かく見守っている様子が伝わってきます。

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3番目は、本物の猫ではありませんが、猫のファッションに身を包む女性。「東京自慢十二ヵ月 六月 入谷の朝顔 新ばし福助」です。入谷の朝顔市にやって来た、福助という新橋の芸者さん。

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注目はそのファッション。茶トラ、三毛、ブチなど、さまざまな模様の猫たちが浴衣にびっしり。この女性、大の猫好きなのでしょう。

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大の猫好きといえば、こちらの女性も。「古今比売鑑 薄雲」に描かれた、元禄時代に実在した薄雲という花魁です。

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着物の柄だけでなく、簪も猫の飾りがついています。大の猫好きだったという逸話も伝わっています。詳しくは別の記事で紹介しましたので、ご覧下さい。

さらに猫好きと言えば、冒頭で紹介した通り、芳年の師匠である歌川国芳。こちらは国芳の13回忌の際、芳年が追善として描いた国芳の肖像画です。地獄の閻魔様の模様が入った浴衣を着た、気風がいい姿で描かれています。

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注目したいのは足元にいる白い猫。大好きな国芳の陰に隠れながら、こちらをちらりちらりとのぞいているようです。猫好きな師匠が寂しくないよう、芳年がそっと描き添えてあげたのでしょう。

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以上、芳年が描いた可愛らしい猫の絵をご紹介してきました。最後に芳年と猫の関係をうかがわせる作品をご覧下さい。芳年の門人である山崎年信が描いた「大日本優名鏡」です。歌舞伎役者の九代目市川団十郎、力士の熊ヶ嶽庄五郎と並んで、芳年の姿が描かれています。

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仕事机に向かっている芳年ですが、肩には1匹の白猫が。優しく顔を撫でており、猫の方も芳年の手に前足を乗せています。師匠の国芳を彷彿とさせる姿です。

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弟子があえてこのように芳年を描いていることから察するに、芳年も猫を飼っていたのでしょう。芳年が描く猫が可愛らしいのは、芳年の猫に対する愛情があふれているからなのかもしれません。

文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)

太田記念美術館が所蔵する動物の浮世絵を集めた画集です。

動物好きな方はぜひこちらのオンライン展覧会も。有料200円で歌川広重の描いた動物をご覧いただけます。

月岡芳年の作品にご興味のある方は、オンライン展覧会「月岡芳年ー血と妖艶」展(有料・各600円)をご利用下さい。


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