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秋を感じる歌川広重の浮世絵を集めてみた

夏の暑さも過ぎ去り、秋の涼しさを感じるような季節となりました。今回は歌川広重の浮世絵から、紅葉や月、秋草といった秋のモチーフを描いた浮世絵5点をご紹介します。

①歌川広重「冨士三十六景 甲斐大月の原」

4255歌川広重1

場所は現在の山梨県大月市。辺り一面は野原のようなですが、秋の七草に数えられる草花が生えています。

オバナ(ススキ)。

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オミナエシ。

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ナデシコとキキョウ。色とりどりに咲く秋の七草ですが、人の気配が感じられず、秋のもの悲しさを際立たせます。

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②歌川広重「信州更科田毎の月」

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場所は現在の長野県千曲市にある姥捨山のふもと。万葉集の時代から月の名所として知られています。雲一つない空には、綺麗な満月が。「名月や田毎をこえて幾千里」の発句が添えられています。

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姥捨山のふもとに数多くあった、小さな棚田の水面に月が移りゆくことを「田毎たごとの月」と呼んでいました。広重はその田毎の月を描いているんのですが…

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すべての棚田に月が映っています。文字通り「田毎の月」ではありますが、もちろん、このように同時にいくつもの月が見えることはありえません。

美しい月を眺めにやって来たのは武家のお姫様たちの一行でしょうか。

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夜でありながら、橙色が鮮やかな紅葉を堪能できるのも、浮世絵ならではでしょう。紅葉の描写の仕方にも注目です。

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③歌川広重「名所江戸百景 請地秋葉の境内」

4485 歌川広重1

場所は、現在の東京都墨田区向島にある秋葉大権現社(現在の秋葉神社)のそばにあった大きな池。江戸の中でも有名な紅葉の名所で、『江戸名所図会』には「晩秋の頃池水に映して錦をあらふがごとく奇観たり」と評されています。

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池のほとりの木が真っ赤に紅葉しています。見逃してはいけないのは、水面に映っている紅葉の影。秋の日差しによって生まれた影を、広重は淡い橙色で描写しています。

さらに、左下もご覧下さい。剃髪した男性が茶屋で何かを描いているようです。池のほとりの紅葉を写生しているのでしょうか。

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広重がこの浮世絵を制作した頃、広重はこの絵の男性と同じように剃髪していました。もしかしたら、広重が自画像として描いたのかもしれません。

こちらは広重が亡くなった時に刊行された肖像画。上の作品の翌年に刊行されました。髪型を比べると、確かに自画像では?と考えてみたくなりますね。

④歌川広重「東都名所 道灌山虫聞之図」

4022歌川広重1

場所は、現在の荒川区西日暮里付近にある道灌山どうかんやま。虫の音色を聴く名所として知られ、秋の季節になると、風流な人たちが松虫や鈴虫の音に聴き入りました。

辺りには草むらが広がり、遠くには昇ってきた満月が見えます。

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画面左下にいるのは、丘を登ってくる家族連れ。小さい女の子が母親らしき女性に虫籠を見せています。「これから虫をたくさん捕まえるよ」とおしゃべりしているのでしょうか。

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画面右上の見晴らしのよい所では、3人の男性たちが茣蓙を広げています。酒と肴とともに虫の音を聴こうとやって来たのでしょう。遠くには美しい満月も見え、秋の風情を満喫しているようです。

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⑤歌川広重「江戸近郊名所 海案寺紅葉」

2980歌川広重1

最後にご紹介するのは、浮世絵らしからぬ色づかいの作品です。場所は、現在の東京都品川区にある海晏寺かいあんじ。寺の境内の裏は江戸湾が見渡せる台地となっており、紅葉狩りの名所として絶大な人気を誇っていました。

2980歌川広重2

老若男女、さまざまな人々が美しい紅葉の中を散策しています。

さて、この極端に横長の画面と淡い色づかいについてですが、この浮世絵は文字を書くための「絵半切えばんぎれ」として制作されました。そのため、文字の邪魔にならないよう、余白が広く、色も淡くなっているのです。

2980歌川広重3

2980歌川広重4

先ほど紹介した②や③の紅葉とはまた違った味わいを楽しむことができます。

秋の風情を感じる浮世絵、いかがだったでしょうか。皆さんもぜひ身の回りの秋を探してみて下さい。

文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)

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