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江戸時代のスズメたちの世界に潜入してみた

図1

顔はスズメなのに、体は人間。不思議な姿をした鳥人間たちを描いた、歌川国芳の「里すずめねぐらの仮宿」。
動物を擬人化させることが得意だった、歌川国芳の代表作の一つです。
歌川国芳の「里すずめねぐらの仮宿」をクローズアップすることで、スズメたちが暮らしている世界をじっくりと観察してみましょう。

まずは、画面の左上。格子窓のある部屋、赤い絨毯の上に、華やかに着飾ったスズメが座っています。スズメの世界の花魁のようです。

図2

この作品が制作されたのは、弘化2年(1845)のことでした。その年、吉原遊廓は火災にあい、仮宅(仮営業所)での営業がおこなわれていました。しかし、その宣伝をしようと思っても、当時は天保の改革によって、幕府から花魁を描くことを禁止されていました。

そこで国芳は、人間をすべてスズメにすることによって、これはあくまでスズメの世界の遊廓であるとして、浮世絵を描きました。題名に「ねぐらの仮宿」とあるのは、吉原遊廓の仮宅であることを暗示しています。

格子に隠れてしまっていますが、プライドの高い花魁なのでしょうか。すました顔で座っています。

図3

格子の中にいる花魁たちの美しい姿を見ようと、大勢のスズメたちが集まってきました。格子に顔を近づけていますが、花魁に声をかけるのは緊張しているのでしょうか。隣にいる友人たちと何かひそひそと話をするのが精いっぱいのようです。

図4

こちらは立ち姿の花魁。華やかな着物がよく見えます。着物には、スズメとよく組み合わせされる「竹」が描かれています。

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こちらが顔のアップ。顔は完全にスズメなのですが、じっと見ていると、なんだか美人に見えてきませんか?

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すまし顔の花魁だけではありません。こちらの左端にいる花魁は、格子から顔を出して、外にいる男性と熱心におしゃべりをしています。花魁が持っているはずの煙管をこの男性が持っているところをみると、おそらくこの花魁と男性は恋人同士なのでしょう。少しでも近付いておしゃべりしたいという花魁の気持ちが伝わってきます。

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男性のファッションにも注目です。服に平仮名が書かれています。しかも、「おやどはどこだ」「したきりすゞめ」といった、『舌切り雀』にちなんだ文字が書かれています。

図8

こちらの格子の中にいるスズメは、花魁ではなく、お付きの少女である禿(かむろ)です。歌川国芳が好きな方はすぐに気が付くのではないでしょうか。「芳桐印」と呼ばれる、国芳が愛用した印章が、禿の着物の柄に用いられています。窓の外にいる男性から何かを買おうとしているようです。はっきりと分かりませんが、お菓子でしょうか。

図9

花魁を眺めているスズメたちには、いろいろいます。中央にいるのは、腰に刀をさしている武士のスズメたち。扇で顔を隠したり、人混みよりも少し後ろにいたりと、正体がばれないようにしているのでしょうが、かなり首をのばしており、どうも好奇心は隠せないようです。

図10

手拭いを肩にかけた男性のスズメたち。小さな子供を背負っているお母さんらしきスズメもいます。

図11

一方で、花魁に興味がないスズメもいるようです。こちらは羽織姿の男性。キリットした二枚目のようです。左右のスズメたちから熱心に話しかけていますが、そちらにもまったく興味がない様子。

図12

中央のスズメは、左右の女性のスズメたちに袖をつかまれ、呼びとめられているようです。どこかお店に案内しようというのでしょうか。

図13

こちらの右側のスズメは、満面の笑みですね。ここまで笑顔をしているスズメは、この作品でも珍しいです。

図14

働いているスズメたちもいます。左端にいるスズメは大きな台を、バランス良く頭に載せて運んでいます。手は使っていません。

図15

台の上に載っているのは、右端は魚の煮つけ、その奥は赤身のお刺身のようです。この世界のスズメたちは、魚料理を食べるようです。

図16

こちらのスズメが手にしている大きな提灯には「かりん」と平仮名で書かれています。お菓子のカリントウを売り歩いています。

図17

こちらは、駕籠かき。駕籠に客をのせて運んでいる最中です。注目すべきは、背中に彫られた彫物。

図18

立派な龍の彫物が彫られています。スズメの頭と人間の体の境目が気になるという方は、じっくりとご覧ください。

図19

こちらは花のかんざしを売っているお店。いろいろな花の形をした簪が、壁に飾られています。

図20

左側の女の子、頭に小さな可愛らしいリボンをつけています。どの簪を買おうか、真剣に悩んでいるようです。

図21

以上、歌川国芳の「里すゞめねぐらの仮宿」を拡大して、その世界に潜り込んでみました。いかがでしたでしょうか?

図22

最後におまけとして、この作品が刊行された時のエピソードを紹介します。当時、浮世絵版画を刊行するには、町名主たちの検閲を受けなくてはなりません。作品に問題がないかをチェックをするためです。OKが出た場合、絵の中に名主が「改印」と呼ばれる判子を捺します。

図23

この作品の場合、右端にある渡辺庄右衛門の「渡」が改印となります。しかし、ちょうとスズメたちの背中に改印が捺されているので、まるで着物の家紋のように見えませんか?ちょっとした遊び心のようにも見えますが、大事な検閲である改印をこんな風にふざけて捺すとは何事だと、この名主は奉行所から叱責されてします。この絵の中には他に2個、「渡」の改印があります。すでに登場していますので、見逃した方はもう一度探してみて下さい。

※この記事は、太田記念美術館のチャンネルで公開しているYOUTUBEの動画「超拡大 歌川国芳「里すゞめねぐらの仮宿」を、noteの記事用に再編集したものです。動画でご覧になりたい方は、こちらをどうぞ。

文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)


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