江戸っ子は雨が降ると、みんな裸足になるのか、調べてみた。
先日のTwitterにて、こちらの歌川広景の「江戸名所道外尽 四十六 本郷御守殿前」を紹介したところ、雨の日はみんな裸足なの?というご質問がいくつかありました。
たしかに雨が降るなか、みんな裸足です。実は、筆者はこれまでまったく気にしていなかったのですが、言われてみれば「なるほど」と思い、早速調べてみました。
たとえば、雨の名作、歌川広重の「江戸名所百景 大はしあたけの夕立」。
左端にいる2人の女性は下駄を履いていますが、
男性たちは裸足になっているようです。(ただし、右から2番目の男性だけは、草履を履いているようにも見えます。)
一方、こちらの溪斎英泉の「江戸八景 吉原の夜雨」。
傘をさす男性たちは高下駄を履き、駕籠かきたちは草鞋(わらじ)を履いています。男性だからといって、必ずしも裸足になるとは限らないようです。
そこで、こちらの作品を見てみましょう。勝川春潮の「夕立」です。突然の夕立に見舞われた男女たちの様子です。
足元を見てみると、草履を履いている人、裸足の人とまちまちです。
ただ、よく見ると、右端にいる女性、脱いだ草履を手に持っています。
左の方にいる男の子も、他の荷物と一緒に草履を手に持っています。雨が降り出したので、今まで履いていた草履を脱いだようです。
さて、最初に紹介した、歌川広景の「江戸名所道外尽 四十六 本郷御守殿前」を、改めてもう一度よく見てみましょう。右端の男性の帯のところをよく見てみると…、
脱いだ草履を、腰に挿しています。
最初から雨が降っていれば、下駄を履いて外出したのでしょう。しかし、思いも寄らない突然の夕立に見舞われると、それまで履いていた草履を脱いで裸足になることがしばしばあったようです。雨の中を草履のままで歩くと、草履が傷みますし、そもそも歩きづらかったからと思われます。一方、足が泥で汚れてしまうことは、それほど気にしなかったようですね。
皆さんも、雨が降っている浮世絵をご覧になった時、描かれている人々の足元に注目してみてください。
文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)