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【オンライン展覧会】「江戸の恋」

 太田記念美術館にて、2022年1月5日~1月30日に開催の「江戸の恋」展のオンライン展覧会です。

 note上では、画像をクリックすると、より大きなサイズでご覧いただけますので、美術館で実物をご覧いただくような感じでお楽しみいただけます。
オンライン展覧会の入館料は800円です。無料公開の下にある「記事を購入する」をクリックしてご購入ください。一度記事をご購入されると無期限でご覧いただけます。
 いつでも、どこでも、お好きな時に「江戸の恋」展をご鑑賞ください。


はじめに

 浮世絵にはあらゆる恋の形を見ることができます。鈴木春信や喜多川歌麿ら一流絵師が描く、見る者をうっとりさせるような美男美女の恋。さらには、心中や不義密通、恋の末の殺人など、実際の衝撃的な事件を脚色した歌舞伎や浄瑠璃の愛憎劇も、浮世絵の格好の題材となっています。理想的な恋だけでなくドラマチックで時にドロドロとした恋愛譚も、江戸の人々を惹きつけてやまなかったのです。
 そこで本展では2部構成とし、第1部「恋に恋して」では、麗しい恋人たちや、遊郭で繰り広げられた恋の駆け引きなどをとらえた作品を、第2部「ドラマチックに恋して」では歌舞伎や浄瑠璃、あるいは伝説や物語のなかで語られてきた運命的な恋を描く作品をご紹介いたします。恋という普遍的なテーマを通して浮世絵を見ることで、甘美な愛の語らいに心ときめかせ、危険な恋の行く末をハラハラと見守る、そんな恋愛物語を楽しむ醍醐味も、本展では味わっていただけることでしょう。そして一途な思いや嫉妬、さまざまな感情を抱いて生きた江戸の人々の、人間味あふれる姿にもぜひ触れてみてください。


第1部 恋に恋して

 都市風俗や遊里を題材とした浮世絵では、恋人同士や遊女と客など、恋心で結ばれた男女が繰り返し描かれました。さらに浮世絵には最新の流行を取り入れることが求められましたから、画中には、各時代の最先端のファッションに身を包んだ、理想の美男美女による恋物語が数多く繰り広げられることとなったのです。
 こんな恋がしてみたい――。当時の人々が憧れた恋の一場面を描いた作品をご紹介する第1部の前半では、鈴木春信や勝川春章、歌川豊国など時代を代表する絵師たちの優品をご覧いただきます。なかでも春信の、時に古典に題材をとることで恋を幻想的に描き出す手腕には注目です。後半では遊里を舞台とした作品を展示いたします。華やかな恋の舞台裏にも触れてみてください。 

1-1. 理想の恋

1 鈴木春信「つれびき」中判 明和4年(1767)頃

カキツバタの咲く水辺で身を寄せ合い、一棹の三味線を引く若い男女。その姿は、実は玄宗皇帝と楊貴妃の見立てとなっています。江戸時代、一本の横笛をともに吹く「並笛図へいてきず」が二人の愛情の深さを示す画題として知られており、本作はこれをふまえて描かれました。春信の描く華奢で繊細な男女に重ねられた、玄宗皇帝と楊貴妃の古典世界。現実離れした恋人たちの姿には幻想的な雰囲気が漂います。また本作は、たおやかな人物像で一世を風靡した春信の優品のひとつでもあります。

2 勝川春章「桜下詠歌の図」絹本着色1幅 天明(1781-89)頃

桜の下で歌を詠む若衆に、幔幕の奥から大勢の女性たちが熱い視線を向けています。総勢13人、その中央手前に陣取る若い女性が一同の主なのでしょう。ちなみに本作は、先行する春章の艶本『番枕陸之翠つがいまくらくがのみどり』(安永5年[1776]頃)の冒頭の図と一致することが知られています。

 3 鈴木春信「男女図(桜)」中判 明和5-6年(1768-69)頃        

雅やかな雰囲気のなか戯れる若い男女。火灯窓の外には満開の桜が見え、見つめ合い唇を寄せる二人を春の風が包み込みます。

 4 鈴木春信「浮世(美人)寄花 路考娘」中判 明和5-6年(1768-69)頃

煙草屋の店先で若い男女が視線を交わしています。題名は当時人気の歌舞伎役者、二代目瀬川菊之丞(俳名路考ろこう)のように美しい娘を「路考娘」と呼んだことにより、娘の帯には菊之丞の定紋である結綿模様があしらわれています。右は扇の地紙を売り歩いた地紙売り(扇売り)。派手な着物に役者の声色を真似たと伝わりますが、評判の煙草屋の娘に対して劣らぬ美丈夫として描かれます。

 5 歌川豊国「両国花火之図」大判6枚続のうち3枚 文化10-11年(1813-14)頃

花火見物の客で賑う両国橋。注目したいのは、画面中央ですれ違う女性へ顔を向けた青年の姿。女性の表情はわからないものの二人は見つめ合っているようです。恋の予感が漂いますが、背景の閃光も、男女が視線を交わす一瞬をよりドラマチックなものとしています。本来は、下に舟で混みあう隅田川を描く3枚が付される6枚続。

6 歌川国貞(三代豊国)「江戸名所百人美女 新大はし」大判 安政5年(1858)2月

商家の娘が恋文と思われる長い手紙を書き終わったところです。巻紙を千切るために舌で紙を濡らしています。巻紙は上下を紅色に染めた「天地紅てんちべに」で、さらに水色の水文が入った高級品のようです。当時は恋心を伝える手段として手紙が大きな役割を果たしました。


1-2.  廓の恋

7 菱川師平「床盃図」絹本着色1幅 元禄(1688-1704)頃 

夏の夜、蚊帳の中で酒の入った盃を遊女に飲ませてあげる男性を、遊女は見つめ返しています。蚊帳の内外を描くのはこの時代に好まれた趣向のひとつですが、遊女の顔がはっきりと見えるようにそこの場所だけ蚊帳を巻き上げています。また繊細な植物模様が表された夏衣装やゆったりとした仕草も遊女の美しさを引き立てます。 

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