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夏っぽい雲の浮世絵を集めてみた

関東も梅雨明けし、夏の暑い日が近づこうとしています。今回は風景を描いた浮世絵の中から、夏の季節を思わせる「雲」を描いた作品を集めてみました。なお、雲について科学的に正確な知識を持ち合わせていませんので、もしかしたら夏の雲ではないということもあるかもしれません。雲に詳しい方がいらっしゃいましたら、ぜひコメント欄にご意見をいただければ幸いです。

さて、最初にご紹介するのは、昇亭北寿「東都両国之風景」。北寿は葛飾北斎の門人です。師匠の影響を受け、透視図法を駆使した西洋風の風景画を得意としました。場所は両国橋が架かる隅田川。納涼船が浮かんでいます。

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空は鮮やかな青空。画面右側、上空までモクモクとした雲が広がっています。

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隅田川の対岸の先にも雲がわき上がっています。

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日傘をさしている人もいます。両国橋を渡る人たちの足元をよく見てみると、浮世絵では珍しい、うっすらとした影ができていることにお気づきでしょうか。日差しがかなり強いようです。

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2番目に紹介するのは、歌川国芳「東都名所 かすみが関」。霞が関坂を下から見上げています。もう少し歩を進めれば、江戸湾を遠くに見渡すことができることでしょう。

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空には上空までのびた雲がたなびいています。(への字の形をした白いものが見えますが、虫穴です)

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夏の暑い日なのでしょう。坂道を登る人々は、日傘をさしたり、扇子であおいだりしながら、暑さをなんとかしのごうとしています。

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材木を山ほど積んだ荷車を懸命に運ぶ男性は、暑さのためか、上半身は真っ裸。その後ろには、モクモクとした雲が広がっています。

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3番目に紹介するのは、歌川広重「東海道 五十一 五十三次 水口」。広重は東海道五十三次を描いた揃物をいくつも手掛けていますが、こちらは俗に隷書東海道と呼ばれている、丸屋清次郎版の東海道シリーズです。

場所は水口宿(現在の滋賀県甲賀市水口町旧市街)から少し離れた山道です。抜けるような青空です。

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農夫が荷を背負った黒牛を曳いていますが、その先の山の向こうにモクモクとした雲が見えます。ここから石部宿を過ぎれば、琵琶湖の近くにたどり着きます。

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最後にご紹介するのは、葛飾北斎「冨嶽三十六景 甲州三嶌越」。山中湖から籠坂峠付近の山道の景色を描いていると思われます。

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富士山の脇を取り囲むように、モクモクとした雲がわきあがっています。

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さらに注目すべきが、富士山の頂上にかかっている笠雲。山頂をぐるりととぐろを巻くように巡り、さらに風にたなびているという不思議な形をしています。まるで頂上の火口から煙を出しているかのよう。

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しかしながら、旅人たちにとって、そんな雲の形にはまったく興味がないようです。空を見上げることなく、皆で手をつなぎ、巨大な木の太さを測っています。雲よりも木の大きさの方に関心があるようですね。

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浮世絵の風景画では、雲は背景の一部だり、それほど目立つ存在ではないというのがもっぱらですが、それぞれいろいろな表情をしています。風景画を見る際には、ぜひ、雲の形も見逃さないようにして下さい。

さて、太田記念美術館では、浮世絵に描かれた天候にスポットを当てた「江戸の天気」展を、2021年6月26日(土)~8月29日(日)に開催しました。現在はオンライン展覧会としてご覧いただけますので、江戸の天気にご興味のある方はご利用ください。ただし、今回ご紹介した作品は、展覧会に出品しないものも含んでおりますので、ご注意ください。

文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)

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