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【オンライン展覧会】はこぶ浮世絵ークルマ・船・鉄道

太田記念美術館にて、2022年10月1日~10月26日まで開催の「はこぶ浮世絵ークルマ・船・鉄道」展のオンライン展覧会です。展示作品全66点の画像および作品解説を掲載しています。
note上では、画像をクリックすると、より大きなサイズでご覧いただけますので、美術館で実物をご覧いただくようにお楽しみいただけます。
オンライン展覧会の入館料は、実際の展覧会と同じ800円です。無料公開の下にある「記事を購入する」をクリックしてご購入ください。一度記事をご購入されると無期限でご覧いただけます。いつでも、どこでも、好きな時に展覧会をご鑑賞ください。

はじめに

人間の日々の生活に欠かせない、〈はこぶ〉という行為。江戸時代には、人や馬、船などを用いたさまざまな輸送の仕組みがありました。
江戸は水の都であり、舟運は江戸の人々の暮らしを支え、廻船などによる江戸と諸国との海運も盛んでした。陸路では東海道をはじめとした街道が整備され、物流に用いられるのはもちろん、庶民の間で盛んになった遠方への旅のルートともなったのです。歌川広重や葛飾北斎ら浮世絵師たちが描いた作品の中には、こうしたさまざまな物流・交通の様子が、生き生きと写し取られています。
また、今年は鉄道誕生150年の記念の年でもあります。明治時代の浮世絵には、当時の日本人にとって未知の乗り物であった鉄道をはじめ、馬車や人力車など、文明開化を彩る新しい輸送の様子が盛んに描かれています。
コロナ禍でインターネットを駆使した物流が発展を遂げている昨今ですが、本展では現代のルーツともいえる江戸時代のさまざまな輸送に注目し、浮世絵を通して読み解きます。

※作品No.は実際の会場での陳列No.です。そのため一部数字が前後している箇所がありますことをご了承ください。

Ⅰ はこぶ人たち

浮世絵には江戸時代の江戸市中や、諸国の様子が数多く描かれていますが、〈はこぶ〉というキーワードでそれらの作品を見てみると、そこには料亭で料理を運ぶ人、街で物を売り歩く人、収穫された農作物を運ぶ人、馬や荷車に商品を載せて運ぶ人など、それぞれの目的や手段で物を運ぶ人々の姿が描かれていることに改めて気づきます。浮世絵に描かれたこれらの風俗を読み解くことで、当時の人々のリアルな暮らしが浮かび上がるとともに、よく知られている浮世絵の名品も、今までとは違った形で見えてくるかも知れません。

№1 歌川国貞/歌川広重「双筆五十三次 府中 あへ川歩行渡し」大判 嘉永7年(1854)8月

天秤棒を担いだ子供が籠を持った女性に微笑みながら近寄っています。籠の中身はお茶の葉で、2人は茶摘みに来ているようです。題名にある府中の付近は、お茶が名産として知られていました。天秤棒で両側に吊るした桶や籠を、平衡を保って運ぶ古くからの運搬法で、江戸時代にも広く用いられました。画面上のコマ絵には描かれるのは、付近を流れる安倍川。


№2 鈴木春信「浮世(美人)寄花 路考娘」中判 明和5~6年(1768~69)頃

扇形の箱を肩に担いで運ぶ若い男性の姿が描かれています。煙草屋の店先に佇む若い女性が、男性と視線を交わしています。男性は夏の風物詩でもあった扇売り(地紙売り)で、扇の地紙(じがみ)を売り、その場で扇子に仕立てたりもしました。


№3 歌川豊国「愛宕山夏景色」大判3枚続 寛政2~4年(1790~92)頃

夏の昼下がりでしょうか、愛宕山山頂での茶屋の風景を描いた作品。画面中央では、茶屋娘が盆に載せたお茶を客の元へ運んでいます。江戸時代半ば頃より、寺社や街道沿いなどで茶を提供する水茶屋が盛えました。茶屋ではしばしば看板娘が人気を博し、浮世絵にも描かれています。


№4 菊川英山「江戸花美人合」大判2枚続 文化8~11年(1811~14)頃

雪の中、傘を指した女性たちが描かれています。右の2人組は、座敷へ向かう芸者と送りの女性。送りの女性が手にするのは芸者が座敷で弾く三味線で、三味線箱に入れた上で風呂敷に包んで持ち運んでいます。左の2人組の女性たちが芸者たちに視線を向けているようです。本来は三枚続であった作品のうちの二枚。


№5 歌川国貞/歌川広重「双筆五十三次 平塚 馬入川舟渡」大判 嘉永7年(1854)7月

手ぬぐいを肩にかけた女性が、両手に一つずつ膳を持って運んでいます。女性の後ろに続くのはそのお手伝いをする少女で、飯櫃を両手で抱えているようです。女性は題名から平塚宿にあった旅籠屋の給仕係と思われます。膳の上には飯碗や汁椀などが並び、皿の上には魚が一匹ずつ置かれています。


№6 月岡芳年「風俗三十二相 おもたさう 天保年間深川かるこ風ぞく」 大判 明治21年(1888)3月

片手で膳を担いで運ぶ女性が描かれています。題名にある「かるこ」とは軽子のことで、深川の遊里で座敷へ酒肴を運ぶ仲居のことを指しました。同じ遊廓でも吉原では男性が行う力のいる仕事でしたが、深川では女性が行うのが興味を引いたのか、浮世絵にもよく描かれています。


№7 歌川国貞「遊廓の賑わい」大判3枚続 文化13年(1816)頃

深川あたりでしょうか、海に面した遊廓でのにぎやかな様子が描かれています。画面左では、女性が2人がかりで卓袱台しっぽくだいに盛られた料理を運んでいます。これは「台の物」と呼ばれ、遊廓からの注文を受けて専門の仕出し屋が届けました。皿の上には豪華な鯛や煮物などが並んでいます。値段は一分台と呼ばれるもので一分(約25000円ほど)でした。

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