浮世絵のカエルたちをご紹介します
カエルが好きな絵師と言えば、自分のお墓にカエルの形の石を選んだ河鍋暁斎。
暁斎の絵本には、リアルなカエルから、人間さながらの動きをするカエルまで、さまざまなカエルたちが登場します。
では、他の絵師たちはどのようにカエルを描いているのでしょうか。今回は、浮世絵に描かれたカエルたちをご紹介しましょう。
まずは河鍋暁斎以上に、数多くの絵本を制作した葛飾北斎。その代表作である『北斎漫画』の初編には、2匹のカエルが登場します。1枚目はトノサマガエル、2枚目はアメフクラガエルでしょうか(カエルに詳しい方、ご教示ください)。いずれもリアルなカエルを描いています。
さらに北斎の絵本からご紹介。『三体画譜』では、カタツムリと一緒にカエルを3匹描いています。
こちらは『略画早指南』のカエルの親子。まったくカエルに見えないって?
実はこの『略画早指南』はぶんまわし(コンパス)や定規を使って絵を描くことを教える指南書。上の絵のように、コンパスで下書きをしてから…
次のステップでは、ご覧のようにカエルの形になります。コンパスを使って描く方が逆に難しいような気もしますが(笑)。
次は、河鍋暁斎が幼い頃に弟子入りしていた歌川国芳です。こちらは「蝦蟇手本ひやうきんぐら 四段目」。「仮名手本忠臣蔵」の登場人物たちをカエルに置き換えたシリーズです。塩冶判官が切腹した後、大星由良之助が亡き主君の形見の刀を取り出して復讐を誓っている場面です。
よく見ると、刀はナメクジ。さらに二ツ巴の家紋にご注目。目が付いています。2匹のオタマジャクシが紋を形作っているんですね。
同じく歌川国芳の「蝦蟇手本ひやうきんぐら」より「八段目」。加古川本蔵の妻である戸無瀬と娘の小波が、山科にいる大星力弥に会うため、東海道を下るという場面です。笑いのポイントは、富士山がカエルの形をしているところ。への字口をしています。
実は、河鍋暁斎は歌川国芳のこの趣向をそっくり真似しています。比べてみると、暁斎のカエルの方が、よりカエルらしくて可愛いらしいですね。しかも暁斎は、笠や着物も蓮の葉っぱにするという気合の入れようです。
三番目は、河鍋暁斎の兄弟子にあたる歌川芳虎。「越中立山の地獄谷に肉芝道人蛙合戦の奇をあらはし良門伊賀寿の両雄に妖術を授く」という長いタイトルの作品です。
中央に入る巨大なカエルを背後に従えた肉芝道人という老人が、妖術を使ってたくさんのカエルたちを召喚したところ。敵と味方に分かれさせ、戦わせています。
相撲を取るカエルたち。
蒲の穂や蓮の葉を槍のように使って戦っているカエルたち。
なかには熱くなり過ぎて噛みついてしまうカエルも。遊んでいるようにも見えますが、目つきを見ると結構真剣です。
さて、最後にご紹介するのは、同じく歌川国芳の門人である歌川芳員。「将軍太郎良門蟇ノ術ヲ以て相馬の内裏を顕し亡父の栄花を見せ父のあだをほふぜんと士卒をはけまし軍評定の図」です。画面左に巨大なカエルが描かれています。
よく見ると、小さなカエルがたくさん集まって、大きなカエルの姿となっています。実はこのカエルは、右端にいる平良門の妖術で生み出されたものなのです。皆、黙って大人しく固まっていますね。
お腹のあたりには、顔をこちらに向けたカエルも。「あんまり押さないで!」という表情をしています。その左下のカエルは、すっかりあきらめた表情のよう。
以上、浮世絵に描かれたカエルたちを紹介しました。太田記念美術館では2021年12月19日まで、河鍋暁斎の絵本を紹介する「河鍋暁斎ー躍動する絵本」展を開催しています。カエル好きの方、ぜひ展示室の中にいるカエルたちを探してみてください。
文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)
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