![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37738032/rectangle_large_type_2_55ebb48b3760ffbd07db306a0557f7c0.jpg?width=1200)
江戸時代のお蕎麦屋さんをご紹介します。
江戸っ子たちが大好きだったグルメといえば、蕎麦。今回は、浮世絵の中に描かれたお蕎麦屋さんをご紹介します。
まずは、屋台を担いで蕎麦を売り歩く、夜蕎麦売りの浮世絵から。歌川国貞の「今世斗計十二時 寅ノ刻」です。寅ノ刻とは深夜3時から5時ごろのこと。岡場所の遊女が描かれていますが、左上をご覧下さい。
![画像15](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37746356/picture_pc_8cb61af42712f9381c7494b76f384e4c.jpg?width=1200)
こんな深夜まで、蕎麦を売り歩いている夜蕎麦売りの様子です。屋台に風鈴が2つぶら下げられているところにご注目ください。
![](https://assets.st-note.com/img/1649297367327-X1cNc8jzhw.jpg?width=1200)
これは夜蕎麦売りの中でも、風鈴蕎麦と呼ばれるもの。夜蕎麦売りには、安価なかけそばを売る夜鷹蕎麦というものがありましたが、夜鷹蕎麦よりも上等な蕎麦売りが、この風鈴蕎麦でした。かけそばに具を載せており、値段もやや高かったといいます。しかし、夜鷹蕎麦も真似をして風鈴をつけるようになり、この絵が描かれた時期には、見分けはつかなくなったそうです。
次は、歌川国貞の「當穐八幡祭(できあきやわたまつり)」。こちらは歌舞伎舞台の一場面なのですが、夜蕎麦売りの屋台の内側がしっかりと描かれた珍しい作品です。
![図1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37620726/picture_pc_60352fb20e489bc92dfd615594af5a6e.jpg?width=1200)
丼や盆、麺を茹でる鍋、箸を入れたザルなど、狭いスペースにさまざまな道具がコンパクトに収納されています。蕎麦つゆも温められているようです。看板には「二八そばうんとん」とあるので、うどんも扱っていたのでしょうが、当時の江戸っ子たちの人気は断然、蕎麦でしょう。
![12200三代歌川豊国3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37734427/picture_pc_f9b2abedda2aa90fcbf7be7bdc0a12f8.jpg?width=1200)
ちなみに、江戸東京博物館の常設展示室には、蕎麦屋の屋台の復元がおいてあります。
![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37621967/picture_pc_a0797a130bf37667c0caa7a91fc5c4d2.jpg?width=1200)
次は店舗型の蕎麦屋さんをご紹介。幕末、江戸の町には700軒以上の蕎麦屋さんがあったとされるほど、飲食店としてかなりの店舗数がありました。こちらの歌川国芳の「木曽街道六十九次之内 守山 達磨大師」は、江戸の町の蕎麦屋ではなく、現在の滋賀県守山市に位置する守山宿の蕎麦屋を描いています。
![12196歌川国芳のコピー1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37735203/picture_pc_d9376f7f3d76441e3ebb925763bc1657.jpg?width=1200)
現代のように椅子に座って食べるのではなく、畳の上に座り、床にお盆や蒸籠(せいろ)を置いて食べていました。蕎麦をたらふく食べているのは、達磨大師。右の蒸籠はすでに空っぽですので、もう20人前近くは食べている計算。目の前に10人分が積まれているのに、さらに追加オーダー。
![12196歌川国芳3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37735627/picture_pc_97be61899e81a94893dec42896facdc7.jpg?width=1200)
蕎麦を運ぶ店員さんも、本当にぺろりと全部食べてしまいそうだなあと、達磨の大食漢ぶりに戸惑いの表情です。ちなみにこの作品、「守山」から「もりそば」が「山のよう」というダジャレの発想から描かれたと推測されます。
![12196歌川国芳のコピー2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37621999/picture_pc_8d716a0d2ca8c1a34a6a6aa5fe45aa15.jpg?width=1200)
次は、出前をしているお蕎麦屋さん。歌川広景「江戸名所道化尽 九 湯嶋天神の台」です。湯島天神を通りかかったところ、野良犬に足を噛まれてしまい、運んでいたお蕎麦をひっくり返してしまいました。
![11954歌川広景のコピー1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37622011/picture_pc_e7db37c53fe16b907ef075db41a63bc4.jpg)
野良犬、蕎麦屋の足をガブリ。蕎麦屋はあまりの痛さに、大声をあげています。
![11954歌川広景のコピー2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37622023/picture_pc_a19851c1ac656a4e94633bdaa29803ca.jpg?width=1200)
災難なのが、たまたま近くを歩いてた武士。頭から蕎麦をかぶって、転んでしまいました。何とか威厳を保とうと、慌てていない素振りを見せていますが…
![11954歌川広景のコピー3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37622027/picture_pc_af55e76d2db4f39d55ec5b6238625065.jpg?width=1200)
お付きの男は指をさして笑っています。主人が大変な有り様なのに、ひどいですね。
![11954歌川広景5](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37736041/picture_pc_5edcdcbcb51a3a28dee52e5f7b7fa1be.jpg?width=1200)
さて、最後は、こんなところに蕎麦屋の屋台が!?という浮世絵をご紹介。立ちながら食べている客もいますが、はたしてどのような場所だと思いますか?
![IMG_3252のコピー2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37736200/picture_pc_ee75e941d328936596cad93c8cab6b8d.jpg)
正解は、こちら。なんと汐干狩りが行なわれている場所です。品川沖でしょうか。歌川貞秀の「汐干狩の図」という作品の一部です。汐干狩りの季節、早朝に沖まで船に乗り、潮が引いて地面になったところで、貝や魚を収穫しました。
![図23](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37736369/picture_pc_7c980879e817ca8a658e7a9be60bbabf.jpg?width=1200)
ご覧のように、汐干狩には大勢の人たちが。それを目当てにいろいろな物売りたちも集まってきています。蕎麦屋の屋台もその一つ。何とも商売熱心ですね。
![画像15](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37736806/picture_pc_46e97849e07d0e48617402e89d3e1d4f.jpg?width=1200)
参考文献
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文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)
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