雷が落ちる瞬間を捉えた浮世絵を集めてみた
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雷が落ちる瞬間を捉えた浮世絵を集めてみた

最近はスマホのカメラも発達したためか、雷が落ちる瞬間を捉えた写真や映像を目にする機会が増えました。落雷は命の安全を脅かすものではありますが、同時に、その巨大な自然の力は美しさを宿しているとも言えます。現代のように写真や映像が手軽に撮れなかった江戸や明治、浮世絵師たちはどのように雷を表現したのでしょうか。今回は、雷を描いた浮世絵をご紹介いたします。

まずは、葛飾北斎の代表作「冨嶽三十六景」の中から「山下白雨」。富士山の山頂は晴れていますが、麓は黒雲に覆われ、白雨=激しい夕立が降っています。画面の右下にご注目。

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赤茶色の斜めの線で、雷を表現しています。真っ黒な背景に雷を浮かび上がらせるという、余分な要素を削ぎ落した大胆な描写です。

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ちなみにすみだ北斎美術館のロゴマークに使われています。

北斎は『富嶽百景』という絵本でも雷を描いています。「夕立の不二」という題名ですが、今度は色のないモノクロームの画面。

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「冨嶽三十六景 山下白雨」の雷よりも、さらに細い真っ直ぐな線をつなぎ合わせるシンプルな描写です。

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画面の左下、雨の中を足早に駆け抜けようとする人々たちがいます。小さいながらもその雰囲気がよく伝わってくるところは、さすが北斎。

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歌川国貞は、雷が落ちる様子を人々の暮らしとともに描写しました。こちらは「夕立景」。突然の雷雨で、女性たちは慌てて雨戸を閉めたり、蚊帳の中に隠れて耳を塞いだりしています。

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ポイントは、画面の中を走る赤い斜めの線。雷です。他の家具類と重なっているので見えづらいですが、お判りになるでしょうか?

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この絵をそのまま信じると、雷が室内に落ちているという大変な状況になります。おそらく稲光のまぶしさを伝えるため、このような表現にしたのでしょう。

明治時代になると、小林清親がこれまでの浮世絵とは異なる雷の表現をしています。清親は光線画と呼ばれる、光と影を強く意識させる風景画を描きましたが、光を捉える観察力が他の絵師たちよりも優れていました。こちらは「御厩橋之図」。夜になって突然大雨が降り出したようです

576 小林清親1

黒雲の隙間から、雷の光が見えています。先に紹介した北斎や国貞のように、雷を線で描写しているところもありますが、それ以上に広範囲で輝く面として雷を捉えている点が特徴です。

576 小林清親2

慌てて走り出す人々の描写も面白いのですが、隅田川の水面に雷の光が反射している様子を捉えている点にもご注目です。清親ならではの観察力です。

576 小林清親4

自然の風景として雷を描いた作品以外に、物語や伝説の一場面の中にも雷が描かれることはしばしばありました。こちらは歌川芳房の「清盛布引滝遊覧義平霊難波討図」。悪源太義平が処刑された恨みを晴らすため、雷となって憎き相手を焼き殺すというシーン。

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雷となった義平の怨霊から、真下に巨大な雷が落下。下には、焼け焦げとなった難波二郎常俊の死体があります。画面全体に放射状に広がる閃光の表現も迫力満点です。

12510歌川芳房

次は、月岡芳年の「大日本名将鑑 源三位頼政 猪早太」。京都の町を騒がす妖怪・鵺を退治するため、夜空に向かって源頼政が弓を構える場面です。

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頼政のポーズもかっこいいですが、鳴り渡る雷の描写も迫力満点。北斎や国貞のようなシャープな雷ではなく、荒々しく太い雷が頼政の足元にまで落ちてきています。その奥に潜んでいる妖怪、鵺の恐ろしさも感じさせます。

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最後におまけとして、勝川春潮の作品をご紹介。橋の上で男女が行き交っていますが、左側の男性の頭部にご注目。

2062 勝川春潮1

大きめな紙のようなものに棒をつけ、頭に挿しています。

2062 勝川春潮2

実はこれ、新年最初の卯の日に亀戸天神境内の妙義社で授けられた、卯の札というお守りで、参拝の後、これを髪に挿して帰るというのが通例でした。実はこの卯の札、雷除けの護符としても知られていました。やはり落雷は江戸時代の人々にとっても恐ろしいものだったようです。

以上、浮世絵に描かれたさまざまな雷を集めてみました。実際の雷と比べてみようという方は、安全な場所で雷を観察してくださいね。

なお、太田記念美術館にて開催の「江戸の天気」展において、葛飾北斎「冨嶽三十六景 山下白雨」は前期(2021年6月26日~7月25日)、歌川国貞「夕立景」は後期(2021年7月30日~8月29日)に展示しています。

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文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)


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