河鍋暁斎の骸骨は、骨だけなのに生き生きしているという話
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河鍋暁斎の骸骨は、骨だけなのに生き生きしているという話

河鍋暁斎の絵には、骸骨がしばしば登場します。骸骨は骨だけの姿ですので、本来であれば不気味な存在のはずですが、暁斎の骸骨たちには怖さというものがまったくありません。それどころか、生きている人間たちよりも生を謳歌しているようで、とても楽しそうです。

今回は暁斎の骸骨の作例として、『暁斎漫画』という絵本に描かれた1図をじっくりと見ていくことにしましょう。

こちらが『暁斎漫画』のうちの1図。『暁斎漫画』は全部で50ページ分の絵があるのですが、そのうちの見開きの2ページです。

全体図ですと、細かいところが見えづらいので、アップにしてみましょう。まずは左ページの左上から。相撲を取る骸骨たち。見事に投げ技が決まったところです。行司が軍配を上げていますが、手にしているのは骨だけになった団扇。

骸骨は骨だけですので、体はもろいようです。地面に投げ飛ばされると…

ご覧のように木っ端微塵。命がけの戦いだったようです。

ちなみに、この『暁斎漫画』、錦絵と同じく、木版画で制作されています。骸骨の骨の一つ一つが、木の板に細かく彫られているのです。

お次は、人前で仏教の教えなどを説く「説教」の様子。紙が破れて骨がむき出しになった提灯を手前に、説教師が墓石を台にして説教をしていますが…

聞いている聴衆たちは退屈そう。あくびをしたり、煙草を吸ったり、頬杖をついたりしています。

説教師の後ろには、蓮台に腰かけて煙草を吸っている骸骨が。蓮台は本来は仏像を安置するための台座ですので、そんなところに腰かけているのは不謹慎なのですが、ポーズが決まっていますね。

こちらは楽器を演奏をする骸骨たち。左から、尺八、箏、三味線、胡弓を演奏しています。

箏をよく見ると、糸が張られていません。これでは肝心の音が出ませんね。先ほどの相撲の行司の軍配もそうでしたが、骸骨たちの使う道具は骨の部分だけで、皮にあたるような部分は残っていないのです。

こちらは親子連れの骸骨。子どもの骸骨もいるんですね。母親と思われる骸骨は、小さな子どもの骸骨をおんぶしています。もう一人の子どもの骸骨は手提げ行燈で夜道を照らしています。

こちらは宴会をする骸骨たち。踊ったり、お酒を飲んだり、楽器を奏でたり、みな楽しそうです。

さらにアップで見てみましょう。左端にいるのは芸者の骸骨でしょうか。三味線を片手に宴会場にやって来たところですが、三味線をよく見ると、骨しかなくて、皮が張られていません。

大きな盃でお酒を飲む骸骨。飲んだお酒が骨の隙間からこぼれてしまわないか、心配です。

音が鳴らないはずの三味線のリズムに合わせて踊る骸骨。骨だけになった扇子を、両手と両足で広げるだけでなく、さらに頭にも巻き付けています。渾身の宴会芸ですね。見ているこちらも楽しくなります。

さて、『暁斎漫画』の右側のページに目を移してみましょう。まずは左上の骸骨たち。卒塔婆を刀がわりにした骸骨が、右側の骸骨に襲いかかりました。右側の骸骨は、両足をクロスさせた力の入らなそうな姿勢にもかかわらず、見事、片手で卒塔婆を抑え込んでいます。左下に附け打ちをする骸骨がいますので、歌舞伎の一場面を演じているのでしょう。

こちらは綱渡りの曲芸をする骸骨。広げている傘が骨だけなのは、もうお約束ですね。その下では、別の骸骨が大きな声で口上を述べています。

こちらは喧嘩をする骸骨たち。左端の骸骨は投げ飛ばされて、頭を地面に打ち付けています。初めに紹介した相撲のように、粉々にならなくて一安心です。

卒塔婆を振り回している骸骨は酔っぱらっているのでしょうか。4人がかりで押さえつけようとしていますが、それをものともせず、暴れています。

最後に紹介するのが、書画会をする骸骨たち。

左にいる絵師の骸骨が、大勢の前で大きな紙に絵を描こうとしていますが、紙はボロボロ。ちゃんと描けるのか、心配です。

こちらは、腕組みをしながら、じっと絵師の力量を見守る骸骨。口には煙管をくわえています。吸った煙草の煙が、両目の穴からもくもくと抜け出てしまっていますが、骸骨ですから仕方ありません。さらに鼻の穴からも勢いよく煙が飛び出しているようです。

こちらは、こんなボロボロな紙で大丈夫かい?と頭をかくような仕草をする骸骨。ちょっとした仕草でも、生き生きとした動きを感じさせるのが、さすが暁斎です。

以上、『暁斎漫画』に描かれた骸骨たちを紹介しました。骨だけですが、生きている人間たち以上に生き生きとした骸骨たち、ご堪能いただけましたでしょうか。

河鍋暁斎の絵本は、オンライン展覧会「河鍋暁斎ー躍動する絵本」で大量に紹介しています。『暁斎漫画』も全ページ掲載しておりますので、暁斎の世界をさらに覗いてみたいという方は、ぜひご覧ください。

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文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)

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