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ネズミの絵暦いろいろ

旧暦では、一ヶ月が30日からなる大の月と、29日からなる小の月がありました。毎年変わる大小月を示した暦が「大小だいしょう」であり、またこれを絵で示したものを近代以降では「絵暦えごよみ」(大小絵暦)と呼びます。

新年に配られた絵暦では、鶴や亀、十二支などおめでたい動物もモチーフとして人気でした。今回は太田記念美術館が所蔵する絵暦のなかから、安永9年(1779)、庚子かのえねの、ネズミが大活躍する絵暦をご紹介いたします。

「鼠の相撲」 12.6×13.1cm

ネズミの力士が睨み合っています。行司は大黒天ですが、白ネズミは大黒天の使いと考えられたことから両者を結びつけた作品も多く描かれました。大黒天は普段手にしている打ち出の小槌や大きな袋も脇に置き、取り組みに集中しているようです。ちなみに扇に描かれた大根も、大黒天にまつわる縁起ものです。

さてこちらの絵暦では上部の幔幕に大小の月が表されています。右のネズミの力士のまわしには「庚」の文字も見えます。


「鼠の嫁入り」 10.8×12.5cm

色直しをするネズミのお嫁さん。ネズミは、多産であることから子孫繁栄の象徴としてもとらえられていました。そのためネズミの嫁入りは縁起の良い画題としても好まれていたのです。

ここでは、背後に立てられた屏風に大小月が表されます。

心なしか嬉しそうな表情の花嫁。新たにまとう着物は宝尽くし文様です。

「鼠と大黒」 13.2×14.1cm
大の月(正、ニ、四、六、九、十一)が描き込まれているのですが、どこかわかるでしょうか?

ちょっと強引だったでしょうか。絵暦にはこうした遊び心もふんだんに盛り込まれました。

「鼠に小判」 8.1×7.7cm

大の月がどこにあるか、なんとなく見えるでしょうか?

最後は「大根に鼠」( 7.9×13.7cm)。難問です。

よーく目をこらすと

大の月と「かのへとし」とする文字が隠れていました。
ちなみに白ネズミは、ちょっと分かりづらいのですが、ごく浅い空摺からずり(和紙に凹凸を付ける摺り方)で表されています。


また、今回ご紹介した作品で最も小さいのは「鼠に小判」。iPhone miniよりちょっと小さい、そんなサイズ感です。絵暦には小さな画面にさまざまな工夫が凝らされているのです。

いかがでしたでしょうか。ネズミや大黒天だけでなく、俵や小判など、富貴を思い起こさせるモチーフも盛り込まれた絵暦。現代人が新年の挨拶である年賀状におめでたい絵柄を選ぶ感覚と共通するのではないでしょうか。

文:赤木美智(太田記念美術館主幹学芸員)

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