浮世絵の雨の線ってどんな色?
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浮世絵の雨の線ってどんな色?

浮世絵には雨が降っている様子がしばしば描かれています。例えば、有名な歌川広重の「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」では、突然降り注ぐ夕立の激しさを捉えています。

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この作品のように、浮世絵で雨を表現する際に、斜めの直線がしばしば用いられています。では、その雨の線がどんな色をしているのか、じっくりとご覧になったことはあるでしょうか?

こちらの広重の「大はしあたけの夕立」の雨の線も、単に黒い色をしているのではなく、黒色と、それよりもやや薄い灰色の2色に摺り分けられています。

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そこで今回は、普段はあまり意識されることのない、雨の線の「色」に注目してみましょう。

まずは喜多川歌麿の『絵本四季花』という絵本より、夏の土砂降りを描いた場面。左側の男性が、急いで雨戸を閉めようとしています。

4-1-10絵本四季花 歌麿1

画面の右上に外の雨の様子が描かれていますが、黒一色で摺られています。線と線の隙間の狭さが、雨の激しさを物語っています。

4-1-10絵本四季花 歌麿3

一方、白色で雨を表現することもありました。こちらは歌川国貞の「江戸八景 吉原ノ夜雨」。場所は吉原遊廓の妓楼。夜の時刻、外では雨が降っているようです。

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画面上の窓の外を眺めてみましょう。日が暮れていますので、外は真っ暗。そのため、雨を黒色で重ねず、版木を彫ることによって、雨の部分を白く摺り残しました。そのため、雨が白色=和紙の地色になっています。

921歌川国貞2

それに対し、白い絵具を使って雨を表現することもあります。こちらは蜂須賀国明の「千住大橋吾妻橋 洪水落橋之図」。明治18年、台風による増水で隅田川に架かる橋が流されている様子が描かれています。

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台風による大雨は収まったようですが、まだ雨は降り続いているようです。白い絵具を上から摺り重ねることで、雨の線を表現しています。うっすらと見えるのがお判りでしょうか。

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最後にご紹介するのが、溪斎英泉の「江戸八景 吉原の夜雨」。3番目に紹介した歌川国貞の作品と同じ題名ですが、こちらは吉原遊廓の外の景色を描いています。

280溪斎英泉1

一見したところ、雨の線の色は薄墨色のようですが、近づいてみると、実は藍色になっていることが分かります。夜に降る雨が、闇にまぎれないようにしたのでしょう。実は、雨の線に藍色が用いられる作例はあまり多くはありません。そのため、言われないと、気付かずに見過ごしてしまいそうです。

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同じ雨の線と言っても、浮世絵師たちはさまざまに工夫しているのです。

太田記念美術館にて2021年6月26日(土)~8月29日(日)に開催の「江戸の天気」展では、歌川国貞「江戸八景 吉原ノ夜雨」、蜂須賀国明の「千住大橋吾妻橋 洪水落橋之図」、溪斎英泉「江戸八景 吉原の夜雨」の3点を前期(6/26~7/25)に、歌川広重「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」と喜多川歌麿『絵本四季花』の2点を後期(7/30~8/29)に展示しております。他にも雨を描いた作品を紹介していますので、ぜひ美術館でじっくりと観察してみてください。

文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)

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