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虎子石、世界にはばたく?の巻 太田記念美術館の謎のアイコン「虎子石」②
さて、今回は虎子石と、太田記念美術館の長い歴史?について書いていきます。
当館学芸員が虎子石を見出したのは、2010年のこと。「浮世絵動物園」という展覧会を開催するために、約14000点にのぼる収蔵品の中から、動物が描かれているさまざまな絵をピックアップしていました。そのとき、偶然学芸員の目についたのがこの作品。
歌川芳員「東海道五十三次内 大磯」(※現在展示されておりません)
もちろん当館で過去に展示された記録はありません。
担当学芸員は、虎子石の「かわいくておかしい」「くだらない」雰囲気に非常に惹かれたそうです。しかし、「浮世絵動物園」という展覧会ですので、まずは猫、犬、ねずみ、鳥などのオーソドックスな動物を描いた作品が出品作に選ばれていきます。虎子石はそもそも生き物かどうかも怪しいキャラクターなので、当初展示に出品するべきかどうか、微妙なラインだったそうです。
しかし、他にも不思議な生き物が描かれた浮世絵はけっこうあります。
歌川芳虎「家内安全ヲ守 十二支之図」(※現在展示しておりません)
こちらは十二支の動物が一緒くたになったという生き物。
月岡芳年「和漢百物語 白藤源太」(※現在展示しておりません)
あるいは、河童のような妖怪とか・・。
最終的には、オーソドックスな動物に限らず、変な生き物や妖怪まで、展示に出すことが決まり、虎子石も「変な生き物」枠で展覧会への出品が決まったのでした。
これがその時のポスター。ポスターが作られる頃には、美術館の一部の職員の間でも虎子石はひそかな人気となっており、館内でデザインされたポスターには、よく見ると虎子石がたくさん登場しています。
そして虎子石に魅せられた別の学芸員(筆者)が、2012年に開設した公式twitterのアイコンに虎子石をひっそりと抜擢。しかし、それほど話題になることにもなく、何となく太田記念美術館の公式twitterに表示され続ける虎子石でした。
しかしtwitterを開設して3年ほどたった頃、虎子石に最大のピンチがおとずれます。フォロワー数も順調に1万人、2万人と増えて、公式アカウントとしての存在感を増す中、虎子石のアイコンはちょっと意味がわからないので、美術館の外観とか、オーソドックスな北斎や広重に変えたほうが良いのでは、という意見が館内で出始めたのです。
あやうく公式twitterのアイコンからはずされそうになる虎子石。しかし、ここで虎子石がその秘めた力を見せつける、ある事件がおきました。世界中の美術館が、あるテーマで1週間つぶやくイベント「MuseumWeek」。2015年のMuseumWeekのテーマは「秘密」だったのですが、下記の虎子石を紹介するツイートが、なんと2000近いリツイートを獲得したのです。
太田記念美術館のツイッターアイコン、不思議な形ですが、これは歌川芳員が描いた「虎子石」という伝説の石。大きな石に虎の手足と尻尾が生えています。担当学芸員の熱烈な好みという理由で選ばれました。#ミュージアムウィーク #秘密MW pic.twitter.com/neVQJOUyMK
— 太田記念美術館 Ota Memorial Museum of Art (@ukiyoeota) March 23, 2015
この一件のあと、館内でも、虎子石をあらためて見直す雰囲気に(?)。その結果、twitterのアイコンは虎子石のままで行こう、ということに落ち着いたのでした。
さて虎子石のおかげで、この年のMuseumWeekでは、太田記念美術館のツイート数が世界の10位以内にランクすることになります。当時のスクリーンショットがこちら。
ルーブル美術館、オルセー美術館、大英博物館といった世界のそうそうたる美術館・博物館のアイコンに混じって、虎子石の姿が・・!なんとなく虎子石が世界の美術館と競い合っているように見えますよね(錯覚)。
文:渡邉 晃(太田記念美術館 虎子石係)
過去記事はこちら。
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