おいしいの視線の先は?―月岡芳年「風俗三十二相 むまさう 嘉永年間女郎之風俗」
満月の輝く夜、建物2階の縁側で女性がにこやかな表情をしている。右手に持つ串の先に刺さっているのは、天ぷらだ。しっぽがあるので魚であろう。メゴチかキスだろうか。
染付の大皿に天ぷらが盛られ、縦じま模様のそばちょこには、天つゆがなみなみと注がれている。
江戸時代の庶民たちに人気のグルメといえば、そば、すし、うなぎ、そして、天ぷらである。江戸の町でいう天ぷらとは、魚介類にうどん粉をまぶして、ごま油で揚げたもの。アナゴや芝エビ、コハダや貝柱などが好まれた。
天ぷらは油を使う