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江戸の地形・土木 記事まとめ

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江戸の地形や土木事業について紹介した記事をまとめました。
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2020年11月の記事一覧

明治の石造アーチ橋に秘められたストーリー

太田記念美術館では2020年10月10日~11月8日に「江戸の土木」展を開催。「土木」というキーワードで、江戸の成り立ちの様子を、浮世絵を通して眺めてみようという展覧会ですが、その見どころをご紹介します。 今回は、明治の石造アーチ橋にまつわるお話。 〈常盤橋〉唯一現存する明治の石造アーチ橋 三代歌川広重「古今東京名所 常盤橋内 印刷局」(個人蔵) これは三代歌川広重が描いた、明治時代の常盤橋の図。石造のアーチ橋で、明治10年(1877)に架けられました。 こちらは常

加速する北斎の遊び心ー葛飾北斎「冨嶽三十六景 遠江山中」

葛飾北斎の代表作「冨嶽三十六景」。全46点ある中で、巨大な波や赤富士を描いた作品は有名だが、他にもお薦めしたい作品はたくさんある。この「遠江山中」は、大胆な構図を駆使した、北斎らしさ満載の作品だ。 舞台は、現在の静岡県西部の山の中。木挽きたちが、斜めに立てかけた角材の上と下に分かれ、懸命にのこぎりを挽いている。 左下の男性は、のこぎりの歯の目立てをして、切れ味を取り戻そうとしているところ。 そこに、赤ん坊を背負った女性が、お弁当の入った包みを手にやって来たようだ。 山

光の色を描き分けるー歌川広重「名所江戸百景 猿わか町よるの景」

歌川広重が晩年、亡くなるまでの約2年半の間に自らの集大成として精力を傾けたのが「名所江戸百景」である。江戸の名所を切り取った風景画のシリーズで、広重が手掛けた点数は118点にのぼる。 有名作を多く含むが、秋の夜長にじっくり眺めたい名作としては、月の光を見事に描写した「猿わか町よるの景」を選びたい。 場所は猿若町。今の東京都台東区浅草6丁目、浅草寺の北東である。森田座、市村座、中村座という、江戸っ子たちに大人気の娯楽であった歌舞伎を上演する芝居小屋が、一ヶ所に集められた繁華

橋に抱く江戸への郷愁ー小林清親「東京新大橋雨中図」

小林清親は、明治時代のはじめに東京の風景を描いた浮世絵師である。西洋の石版画や写真の表現を取り入れ、江戸時代の浮世絵にはない、光と影の移ろいを捉えた「光線画」と称される木版画を生み出した。その最初期に制作された作品が、この「東京新大橋雨中図」である。 隅田川に架かる新大橋に、雨がしとしとと降り注ぐ。空に広がる雨雲は薄くなりつつあるので、雨はもうすぐおさまるだろう。 川の揺らぎや、水面に反射する橋脚や小舟の影を捉えるのが、清親の光線画らしい特色だ。 蛇の目傘をさしている女