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江戸の地形・土木 記事まとめ

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江戸の地形や土木事業について紹介した記事をまとめました。
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#美術館

【オンライン展覧会】「江戸の土木」展

太田記念美術館にて、2020年10月10日~11月8日に開催された「江戸の土木」展のアーカイブです。展示作品・全70点の画像、ならびに、展示室内の作品解説を掲載しています。作品画像はある程度細部までは拡大できますので、美術館で実物をご覧いただくようにお楽しみいただけます。オンライン展覧会の入館料は、実際の美術館の入館料と同額である800円です。ご覧いただける期間は無期限となっておりますので、いつでも、どこでも、好きな時に「江戸の土木」展をご鑑賞いただけます。 はじめに土木と

有料
800

浮世に描かれた橋 ~土木の視点から

太田記念美術館では2020年10月10日~11月8日に「江戸の土木」展を開催しました。近年、土木工事によって造られた地形や構造物に、マニアックな楽しみを見出す人たちが増えています。また東京では、(延期になってしまいましたが)オリンピックを見据えてさまざまな再開発や工事も盛んに行われています。 考えてみると、東京のルーツである100万都市・江戸は、江戸城の普請や、埋め立てにより土地を造成、橋や上水、運河などのインフラの整備など、高度な土木技術より発展していった都市でした。現代

江戸の発展は〈埋め立て〉抜きには語れない

太田記念美術館では2020年10月10日~11月8日に「江戸の土木」展を開催。「土木」というキーワードで、江戸の成り立ちの様子を、浮世絵を通して眺めてみようという展覧会でしたが、その見どころをご紹介します。 家康の江戸入府と埋め立て 今回のテーマは「埋め立て」。江戸の発展は、常に埋め立てとともにあったと言っても言い過ぎではありません。まず天正18年(1590)の家康江戸入府から間もない時期に行われたのが、日比谷入江の埋め立てです。 図のように、家康江戸入府直後の江戸は、「

江戸にもダムがあった話

太田記念美術館では2020年10月10日~11月8日に「江戸の土木」展を開催。「土木」というキーワードで、江戸の成り立ちの様子を、浮世絵を通して眺めてみようという展覧会ですが、その見どころをご紹介します。 今回はダムの話。ダムは現代の土木ファンの間でも人気のジャンルです。各地のダムには大勢の観光客が訪れ、ダムの形を模したダムカレーなども作られて盛り上がりを見せています。 意外にも、家康が江戸に入府して最初期に行った土木事業に、ダムの造成がありました。ダムが造られた理由は、

御茶ノ水は人工の渓谷だった

太田記念美術館では2020年10月10日~11月8日に「江戸の土木」展を開催しました。「土木」というキーワードで、江戸の成り立ちの様子を、浮世絵を通して眺めてみようという展覧会でしたが、その見どころをご紹介します。 今回は江戸時代に、人の手で造られた渓谷の話。御茶ノ水駅から秋葉原駅まで、神田川沿いを下ると、都心とは思えない谷状の地形が続いています。実は飯田橋付近から秋葉原付近までの神田川は、仙台濠とも呼ばれ、仙台伊達藩による大規模な土木工事で生み出された、人工の渓谷なのです

「江戸の土木」展のこだわりや裏話を、担当学芸員に聞いてみた。

2020年10月10日~11月8日に開催された「江戸の土木」展。展覧会のこだわりや裏話を、担当である渡邉晃・上席学芸員に、インタビューしてみました。 街歩きとダムブームがアイデアの種にーー「江戸の土木」展は、橋や水路、街づくりなど、江戸の土木事業にスポットを当てた展覧会になっています。太田記念美術館でもこれまでになかった切り口ですが、どのようにしてこの企画を思い付かれたのでしょうか? 渡邉:2011年から、アートテラー・とに~さんと、「そうだ江戸、行こう。」という、浮世絵

加速する北斎の遊び心ー葛飾北斎「冨嶽三十六景 遠江山中」

葛飾北斎の代表作「冨嶽三十六景」。全46点ある中で、巨大な波や赤富士を描いた作品は有名だが、他にもお薦めしたい作品はたくさんある。この「遠江山中」は、大胆な構図を駆使した、北斎らしさ満載の作品だ。 舞台は、現在の静岡県西部の山の中。木挽きたちが、斜めに立てかけた角材の上と下に分かれ、懸命にのこぎりを挽いている。 左下の男性は、のこぎりの歯の目立てをして、切れ味を取り戻そうとしているところ。 そこに、赤ん坊を背負った女性が、お弁当の入った包みを手にやって来たようだ。 山

光の色を描き分けるー歌川広重「名所江戸百景 猿わか町よるの景」

歌川広重が晩年、亡くなるまでの約2年半の間に自らの集大成として精力を傾けたのが「名所江戸百景」である。江戸の名所を切り取った風景画のシリーズで、広重が手掛けた点数は118点にのぼる。 有名作を多く含むが、秋の夜長にじっくり眺めたい名作としては、月の光を見事に描写した「猿わか町よるの景」を選びたい。 場所は猿若町。今の東京都台東区浅草6丁目、浅草寺の北東である。森田座、市村座、中村座という、江戸っ子たちに大人気の娯楽であった歌舞伎を上演する芝居小屋が、一ヶ所に集められた繁華

橋に抱く江戸への郷愁ー小林清親「東京新大橋雨中図」

小林清親は、明治時代のはじめに東京の風景を描いた浮世絵師である。西洋の石版画や写真の表現を取り入れ、江戸時代の浮世絵にはない、光と影の移ろいを捉えた「光線画」と称される木版画を生み出した。その最初期に制作された作品が、この「東京新大橋雨中図」である。 隅田川に架かる新大橋に、雨がしとしとと降り注ぐ。空に広がる雨雲は薄くなりつつあるので、雨はもうすぐおさまるだろう。 川の揺らぎや、水面に反射する橋脚や小舟の影を捉えるのが、清親の光線画らしい特色だ。 蛇の目傘をさしている女