2022年の干支・寅にちなんで、虎の浮世絵を紹介します。
2022年の干支は寅。それにちなんで、浮世絵に描かれた虎たちをご紹介しましょう。
まずは、葛飾北斎が数え90歳、亡くなる数か月前に描いた肉筆画「雨中の虎」です。雨が降る中、虎が上空を睨みつけて、雄たけびをあげています。
もともとこの「雨中の虎」は「龍図」(ギメ東洋美術館蔵)と双福になるよう制作されました。虎の視線の先には龍がいて、虎は龍に向かって雄たけびをあげているのです。
虎のプロポーションをよく見てみると、首や尾っぽが異様に長かったり、足もかなり大きかったりしていて、バランスはあまりよくありません。しかし、そんな違和感をねじ伏せるほどの存在感があります。
亡くなる直前でも、もっと長生きして絵を描きたいと願ったという北斎。絵に対する執念が、この虎にも込められているようです。
次は、同じく北斎が描いた虎の絵です。『北斎漫画』十三編より「奔虎」と書いて「はしるとら」と読みます。刊行は北斎が亡くなって半年ほど経った頃と考えられています。
木の葉が舞い散るほどの強い風に逆らって疾走する虎。先ほどの「雨中の虎」もそうですが、最晩年の北斎が虎に自らの姿を重ねているのでは、と想像してみたくなります。
北斎以外の虎の浮世絵も紹介しましょう。まずは菊川英山の「虎図」。
ギョロリとした大きな目をしていますが、口元はちょっと笑っているようで、愛嬌のある顔をしています。そんな親しみやすさから、太田記念美術館が監修した書籍『浮世絵動物園』で表紙を飾りました。
画面の右上に竹が描かれていますが、竹と虎の組み合わせは、日本絵画では古くからの定番でした。尾形光琳の「竹虎図」(京都国立博物館)も竹と虎の組み合わせになっています。
次は、歌川芳虎の「神功皇后三韓征伐之御時韓兵計飢虎追放官軍猛禽官軍猛禽投撃亦生捕帝覧備」です。
画面が小さくて見づらいので、アップを並べてみましょう。とにかく虎がたくさんいます。
数えてみたら、全部で13頭いました。
題名を読み解くと、神功皇后が朝鮮に出兵した際、敵国から飢えた虎を放たれるのですが、逆に虎を生け捕ったという場面です。しかし画面の中央で馬に乗った武内宿祢は、明らかに、豊臣秀吉の家臣である加藤清正の姿で描かれています。
当時は戦国時代をそのまま描くことが許されていなかったので、加藤清正が朝鮮で虎を退治したという逸話を、古代の人物である武内宿祢に仮託したのでしょう。ただそれにしても虎が多すぎます・・・。
虎たちの中には、まるで猫のような動きをする虎も。清正の槍にじゃれつく虎が可愛らしいですね。その下で圧し潰されている人たちには迷惑でしょうが(笑)。
そして、虎と言いながら、虎ではない浮世絵を紹介しましょう。落合芳幾の「猛虎之写真」です。題名は「猛虎」とありますが・・・、
明らかに「豹」ですね。
万延元年(1860)、この豹が両国で見世物となったのですが、一般にはこの当時、豹は虎のメスと考えられていました。そのため、虎として紹介されているのです。ちなみに、観客の前で、生きた鶏を餌として与えるパフォーマンスが行なわれていたそうです。
最後に、虎と言えば、太田記念美術館のTwitterやnoteのアイコンに使われている「虎子石」もお忘れなく。歌川芳員「東海道五十三次内 大磯」です。
大きな石に虎の手足と尻尾がついた謎のキャラクター。ちょっと虎とは言い難いのですが・・・。虎子石の詳しい説明についてはこちらをご覧下さい。
この虎子石、太田記念美術館のオリジナル年賀ハガキになりました。美術館受付にて販売中ですが、美術館の今年の開館は12月19日(日)までですので、ご注意下さい。
さらに宣伝ですが、太田記念美術館オリジナルの虎子石LINEスタンプを販売中。
フェリシモミュージアム部さんから虎子石のぬいぐるみ(ポーチ&クッション)も登場しました。
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文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)