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浮世絵のカメたちをご紹介します

太田記念美術館

浮世絵にはさまざまな種類の動物たちが登場します。ネコやイヌといった身近な哺乳類はもちろんですが、両生類や爬虫類の姿も描かれています。以前、カエルの浮世絵を取り上げましたが、今回はカメの浮世絵をご紹介しましょう。

まずは、浮世絵に登場するカメとしてもっとも有名な作品が、歌川広重の「名所江戸百景 深川万年橋」でしょう。

胴体に細い紐が結び付けられ、宙にぶら下がっているカメ。首を上に伸ばし、手足をバタバタしているようです。

なぜカメがこんな姿で吊るされているのかと言えば、このカメは「放し亀」だからです。放し亀とは、橋のたもとや池の端で売られているカメのことで、購入した人はカメをペットとして飼うのではなく、川に放してあげることによって功徳が積むことができました。

放し亀については、こちらの有料記事をご参照ください。

歌川広重よりさらにカメをリアルに描いているのが、葛飾北斎です。こちらは「遊亀」。カメたちが水辺で戯れています。

ちょっと見づらいので、アップにしてみましょう。左端の一番大きなカメの背中に、可愛らしい子ガメが乗っています。親子でしょうか。

のっそりと歩くカメの甲羅の上に、もう一匹のカメが乗っかろうとしています。仲良しですね。

右下にいるのは、手足を懸命に広げて水の中を泳いでいるカメ。水面から顔を出しているようです。

葛飾北斎の描いた「遊亀」、ふつうの浮世絵と比べると、ちょっと色が淡い、落ち着いた感じがするかと思います。実は、この作品は狂歌を愛好する人たちの特注によって制作した「摺物すりもの」と呼ばれるもの。不特定多数に販売する商品ではないので、あえて上品な雰囲気に仕上げています。

リアルな描写で言えば、河鍋暁斎も負けてはいません。こちらは『暁斎画談』という絵本です。暁斎が他の絵師の作品を模写したり、身近な動物をスケッチしたりしたものが含まれているのですが、こちらはカメのスケッチ。

カメの姿を真横から捉えています。特に注目したいのが、カメの頭をいろいろな角度から描いているところ。暁斎は生きているカメを目の前に置いて、いろいろと観察しながらスケッチしたのではないかと思わせます。

こちらも同じようにカメを写生したものです。岩の上を這いまわるカメですが、甲羅から首を伸ばす様子がよく観察されています。

リアルなカメに続いて、今度は文様化・デザイン化されたカメを見てみましょう。

こちらは歌川国貞の「江戸自慢 仲の町灯籠」。美しい花魁の立ち姿ですが、この絵のどこにカメがいるか、お分かりでしょうか。

着物の裾にご注目ください。池の中を泳ぐカメたちの姿が模様になっています。カメはもともと長寿を示す吉祥のイメージがありますので、このような着物のデザインに用いられました。

アップで見てみると、リアルな表現とは違った味わいがありますね。横向きのポーズと黒い瞳が、虎子石を思い出します(笑)。

お次も歌川国貞の浮世絵です。「浄瑠璃つくし 驪山比翼塚 大島村之段」。やはり花魁が描かれていますが、この絵の中にもカメがいます。どこにいるのか探してみて下さい。ちょっと難しいかも知れませんが…。

正解は花魁の髪に挿しているかんざし。上がカメ、下がツルとなり、丸い形を作っているのがお分かりでしょうか。やはりおめでたいデザインですね。

最後に、ちょっと変わり種のカメをご紹介しましょう。皆さんが必ず知っている、あの日本で一番有名なカメです。

作者は葛飾北斎。まだ勝川春朗と名乗っていた若い頃の作品です。この絵のどこに有名なカメがいるのかとお思いになるかも知れませんが、題名を聞いたら、ピンとくるかも知れません。「新版浮絵 浦島龍宮入之図」です。昔話の浦島太郎が題材となっているのです。

この絵は、浦島太郎が助けたカメに連れられて竜宮城にやって来たという場面。釣竿を片手に腰蓑を付けた左側の男性が浦島太郎です。ただ、どこにカメがいるのとお思いかもしれません。

浦島太郎を案内している右側のお爺さんの頭をよくご覧ください。

なんと頭にカメが乗っています。実はこれ、カメが擬人化していることを示す記号のようなものなのです。浦島太郎に助けられたカメを擬人化すると、こんな姿になるんですね。

浮世絵に描かれたカメ、いかがでしたでしょうか。浮世絵に描かれた動物たちはこちらの書籍で紹介しています。ぜひ他の動物たちの作品もご覧ください。

こちらの記事もどうぞ。

文:日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)


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